Θ [03] 上目遣い (キュンとくる10のお題) Θ
俺と千鶴ちゃんは身長差があるから、どうしても彼女は上目遣いになってしまう。
それを俺は見ることが出来なくて、なかなか顔を合わせることができない。
「永倉さんって私と話すときこっち見ませんよね?」
いきなり図星を指されて、俺はどきりとした。
「んなことねーだろ」
「ほら。今だって私の顔見てませんよ?」
笑って答えても千鶴ちゃんは許してくれない。
恐る恐る視線を送ると、頬を子供のように膨らませて俺を睨んでいる。
そんな姿すら可愛く見えてしまう俺は重症で、すぐにバッと顔をそらす。
「い、今のって結構傷つきますよ?」
「悪ぃ。けど無理だ!」
「なんでですか。私…、永倉さんに顔も見てもらえないほど嫌われるようなことしましたか?」
「ぐっ…」
違うといえば彼女はきっと理由を知りたがる。
その理由を、「千鶴ちゃんが可愛すぎるせいだ!」なんて言えたらいいのだけれど、
俺にはそれは告白と同等の恥かしさを含んでいるために言えない。
「……永倉さん」
沈んだ声にチラリと視線を送ると、目には微かに涙が浮かんでいて心臓がはねた。
あれはやばい。やばすぎる。反則もいいところだ。
「そ、そんな顔で俺を見ねーでくれ!」
そう言い残して俺は脱兎のごとく逃走を試みるのだけれど、
「今日という今日は理由を聞くまで私も諦めません!」
千鶴ちゃんも意固地になって俺を追いかけてきた。
果たして「君が好きだ」と告白してしまうのと、
顔を見れない理由を告げてしまうのと、どちらがより恥かしさが薄いのだろうか。
追いかけてきてくれる心地よさに顔を緩めながら、本気でその二つを天秤にかけていた。
(そんなこと言われたら私の方が恥かしいです!!)