Θ [02] 頭をなでなで (キュンとくる10のお題) Θ
左之はよく、千鶴ちゃんの頭を撫でている。
千鶴ちゃんも嫌がる素振りをみせず寧ろ嬉しそうに笑っていたから、
俺は思わず自分の手を見つめた。
「撫でてみてーな……」
「何をですか?」
思わず漏らした言葉に返事がくるものだから驚いて振り返る。
そこには今まさに考えていた千鶴ちゃんがいて、俺の顔は赤に染まる。
「……そ、そそ、その……なんだ」
「はい?」
いつもどおり、彼女は笑みを浮かべて俺の言葉を待つ。
そんなジッと見られると言葉が思うように出てこなくて、
千鶴ちゃんから視線をそらして「そーいや…」とさりげなく告げることにした。
「左之はよく千鶴ちゃんの頭を撫でてんよな」
「そうですね。父様にも撫でてもらってたんで、懐かしいです」
その言葉に俺は少しだけ安心した。
彼女は左之だから嬉しそうだったのではなく、父親との思い出と重ねていたのだ。
「そか。だ、だったら……その……」
伝えたい言葉はあるのに、緊張してなかなか出てこない。
けれど千鶴ちゃんは、俺が口を開くまでちゃんと待っててくれた。
「お…俺が……、俺が千鶴ちゃん…の、頭撫でても……いいか?」
ようやくその言葉を伝えると、千鶴ちゃんはいつものようにふわりと微笑んで「どうぞ」と答えた。
力加減も分からずぎこちなく動く俺の手の下で、千鶴ちゃんはなぜか顔を赤らめていた。
左之と違う反応に、思わず手をとめると、
「ご、ごめんなさい」
俺が口を開くより早く、千鶴ちゃんは頭を下げた。
「永倉さんに撫でられるのは……なんか、駄目みたいです」
「す、すまねぇ」
咄嗟に謝ると彼女はブンブンと頭を振って口を開いた。
「その…、意識するつもりはなかったんですが……なんだか……すごく恥かしくて」
「…………あ?」
彼女の言葉の意味を理解するまで、時間がかかった。
だって左之はよくて俺は駄目ってのは、俺がよく女の子に振られる典礼的な型だから、
千鶴ちゃんも俺を遠まわしに拒絶したのかと思ったのだ。
でも再び彼女に触れると彼女は真っ赤な反応をするから、思わず吹きだしてしまった。
(そんなに笑わなくてもいいのに!!)