Θ [01] 掌で熱をはかる (キュンとくる10のお題) Θ
「全然大丈夫そうに見えないです」
「俺が大丈夫っつってんだから大丈夫だろ」
朝から何度繰り返したか分からない会話。
千鶴ちゃんは素直でいいこだけど、変なところで頑固だ。
「そんな格好だから風邪引くんですよ」
「ぶはっ、確かに。新八っつぁん、真冬にその格好はねぇよな」
「格好は関係ねーだろ。左之だって似たようなもんだし……」
「俺とお前を一緒にすんな。っつかお前、マジで鼻声だぞ」
「そうなんです。絶対熱もあるはずなのに巡察に行くって聞かなくて……」
「熱はねぇ。絶対ねぇ!」
「またそんなこと言って。もう! じゃぁ勝手に測っちゃいますからね」
そう言って千鶴ちゃんは俺に一歩近づくと、片手を伸ばして俺の額に当てた。
冷たいその手に一瞬だけ驚いたけれど、
驚くほど近くで見る彼女の顔にドギマギしてそれどころではない。
「うわぁ! 熱いですよ」
「こ、これは風邪じゃなくてだな。その……」
「何言ってるんですか。もう、お部屋で寝てください」
有無を言わさず千鶴ちゃんは俺の腕を引っ張るように部屋に連行して行く。
「……ごめんな、千鶴ちゃん。親父さんの情報、一緒に探せなくて……」
俺の言葉に千鶴ちゃんはふわりと笑った。
「いいんです。今は永倉さんの方が大事です」
彼女が新選組に身を置く理由は親父さんの行方を探すため。
それなのに、俺なんかを優先してくれた彼女に涙が出そうになった。
千鶴ちゃんと巡察に行きたいがために朝から意地を張っていたけれど、
彼女のためにそんなもの捨ててしまおうと思った。
「今日のところは仕方ねー。左之にでも頼んで……」
けれど、そう言った俺の言葉を遮るように彼女は口を開いた。
「今日はここにいます。永倉さんの風邪が治ったら、一緒にでかけましょう?」
その言葉にまた目頭が熱くなった。
どうやら自分でも思ってた以上に体が弱っていたようだ。涙脆くて仕方ない。
「今度はぜってぇ風邪ひかねーから」
「はい」
小指を絡めて約束をしながら、俺はそっと目を閉じた。
(私だって永倉さんとの巡察楽しみにしてたんですよ!)