Θ 繋いだ手の答え Θ
くしゅん、と小さなくしゃみをして、私はおそるおそる隣の人を見上げた。
無理行って外に連れてきてもらったというのに風邪など引いてしまっては
強制送還させられてしまうだろうか。
不安に思いながら見上げた私の目に映ったのは、
思いがけず優しい顔をした土方さんだった。
「なんて顔してんだ」
と鬼の副長と呼ばれる人は私に向かって苦笑めいた笑みを浮かべた。
最近の土方さんはちょっと優しくなったように感じる。
時々こんなふうに私を笑うからだ。
「あ、あの……。帰れって言われるのかなって」
土方さんの笑みがなんだか恥かしくて、
俯きながらそう呟くと、
「んなことで帰すほうが面倒だろ?」
といつものように言ったけれど、ポンと彼の手が私の背中を叩くから、
頬が自然と赤くなる。
そんな私に気付かずに、土方さんは口を開く。
「そーいや、くしゃみってのはする回数によって意味があるらしいぜ」
「……そうなんですか」
初耳だった私は、「どんな意味ですか?」と尋ねる。
「一回目は確か……、誰かが褒めてんだったな」
「そ…そんな……」
新選組に置いてもらうようになって、褒められるようなことをした覚えがなかった。
けれど誰かが褒めてくれているというのはやっぱり嬉しくて、
えへへっと照れた私はまたくしゃみした。
そんな私を土方さんは笑いながら、
「二回目は謗られてんだ。ま、お前はこっちのが多いんじゃねーのか?」
と告げ意地悪そうに笑った。
確かに、幹部の人たちと仲が良いように見えるらしく、
一般の隊士たちの風当たりは厳しかった。
しゅんと落ち込んだ私に、土方さんは続ける。
「ま、おまえはよくやってるよ。池田屋の時も大活躍だったろ?」
「……あれは……あの場に手が空いたのが私しかいなかったからで」
それに途中までは山崎さんが一緒だった。
一人では何も出来なかっただろう。
「でも、お前のおかげで俺たちは助かった。……そだろ?」
「……はい」
人を斬れない上に鬼を呼んでしまう私を、
他の誰でもない土方さんが「よくやってる」と言ってくれたのが嬉しくて、
私は素直に頷いた。
ポカポカとした気持ちでいたのに、私はまたくしゃみしてしまった。
風邪でも引いてしまったのだろうか。
「っつか、寒ぃなら手でも繋ぐか?」
その言葉は完全に私を子ども扱いしているようだったから、わざと
「土方さんの手って冷たそうですよね」
冗談めかしてそう告げると、
「なら、確かめてみりゃいいだろ」
と本当に手が差し出された。
繋いだ手は想像と全然違って温かくて、なんだか笑みがこぼれた。
「あ、土方さん。三回目ってなにか意味があるんですか?」
思い出したように尋ねた私を、土方さんはマジマジと見つめる。
「…………知らねーよ」
そう言ってそむけた顔はなぜか赤くて、
「えぇ? 教えてくださいよ」
何度聞いてもそれだけは教えてくれなかった。
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