Θ 君に咲く花 Θ
巡察の帰り道にその花を見つけたのは偶然だった。
私の知る花と違ってそこに咲くものはひどく細くて頼りなくて、なんだか自分みたいだと思った。
今日もいつものようにお使いの帰り、こっそりと立ち寄ったのは町外れの原っぱ。
今にも折れそうな細いその花は、それでも太陽を求め茎を伸ばしていた。
必死に上を向くその姿が、ますます自分と重なる。
「向日葵…か」
頭の中に浮かんでいた人の声が聞こえ、ふと我に返った。
「……どうして…ここに?」
風に揺れるそれを眺めながらポツリと尋ねると、背後の気配は私の隣に並んで口を開いた。
「最近、千鶴がいないときがあるからな。ガラにもなく探しちまったんだ」
いつものようにポンとその手が私に触れた。
条件反射のように彼の顔を見上げると、目と目があった。
カッと顔に血液が集まるのを感じながら、パッと顔をそらして口を開く。
「し、知ってますか? 向日葵の名前の由来」
「俺は平助や新八じゃねえからなぁ」
失礼な態度だったかもと反省したけれど、顔を上げる勇気はない。
ただ隣からは苦笑した気配が伝わってきて、ますます私は顔を赤く染めた。
「太陽の方角を向いて咲くから…だったか?」
原田さんの言葉に私は頷いた。
「そうです。きっとこの花は、太陽に……恋をしてるんですよ」
花のことを言っているだけなのに、胸が苦しくなった。
報われない恋をしているのは私も同じだからだ。
「どこにいても必死に追いかけて、決して届かないって分かってるのに諦められなくて。……私そっくり」
自嘲気味に小さく告げると、原田さんは再び私の頭を撫でた。
「千鶴はどっちかってーと太陽だろ」
「え?」
思ってもみなかった言葉に、顔を上げる。
けれど、原田さんは太陽を見つめながら口を開いていたから、
どんな表情でそう口にしたのか私には分からない。
「さっきも言っただろ? 千鶴がいないから探しちまったって」
下りてきた視線が私とぶつかる。
頭を撫でていた手がいつの間にか頬に触れていて、今度は逃げることが出来なかった。
「お前がいないと落ち着かねーっつーか、お前の隣に俺がいたいっつーか。まぁ、なんだ」
そのまま原田さんはゆっくりと身を屈めて、私と同じ目線で口を開いた。
「お前は俺にとっての太陽だから、ちゃんと傍にいろ」
ふわりと微笑むその顔に、目頭が熱くなった。
だってそれではまるで、原田さんが私に届かない恋をしているように聞こえるからだ。
報われないと思っていた気持ちが、手を伸ばせば届くと告げられているようだ。
「傍に……いてもいい…んですか? 私、迷惑…しか……かけない…し」
「惚れた女にかけられるものを、迷惑だなんて思わねーよ」
親指で何度も拭ってもらったけれど、涙はいっこうに止まらなくて、
「この花の花言葉は熱愛っつーんだけど、意味は知ってるか?」
そんな私に原田さんは優しい問いかけた。
「意味…は、心の底から、愛する……ことです」
告げると、正解とばかりに鼻先に口付けが送られた。
突然の行動に驚いて涙が止まった私に、原田さんは笑いながら再び顔を近づけてきた。
今度は唇に。そう感じた私は答えるように背伸びして、ゆっくりと瞼を閉じた。
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