Θ 愛の数だけ君に口付け Θ
巡察の帰りに原田さんに連れられ、いつものように二人で町中を歩いた。
行き先を尋ねると、
「別にどこにも向かっちゃいねーよ。ただ、お前とこうして歩きたかったんだ」
と言われ、頬が熱くなるのを感じた。
だって原田さんはいつだって私に優しくて、私を女の子扱いしてくれるから、
二人で出かけるのが楽しみになっていたのだ。
「わ、私も…、原田さんと歩きたかったです」
そう告げると原田さんは返事の代わりに私の手を取った。
二人の間に会話はなかった。でも、繋いだ手の温もりがあったから、それだけで十分だった。
しばらく歩くと河原が見えて、
「この辺りでいいか」
原田さんは繋いでいた手をそっと離した。
それから私の正面に回ると、真剣な顔で私を見つめた。
「千鶴に、大事な話があんだ」
「はい…」
原田さんが緊張しているのが伝わり、私までドキドキしてしまった。
じっと私を見つめたままで、言葉を探しているのかたっぷりと沈黙が続いた。
瞬きもできずに固まったままの私にいつものようにふわりと微笑むと、原田さんはようやく口を開いた。
「千鶴が好きだ」
あまりに直球すぎて、なんの反応もできなかった。
私は馬鹿みたいに原田さんを見つめたまま固まる。
「俺は、お前に惚れてんだ」
私の固まった思考が動きだし、頬が熱くなるのを感じた。
それでも何も答えない私に、
「なんとか言えって」
と原田さんは照れながら告げた。
「夢、みたいです」
ようやく絞り出した声に、原田さんは苦笑した。
「人が一世一代の大博打に出たってのにそれかよ」
「だって、信じられないです」
真っ赤な顔で俯きながら告げた言葉に原田さんはまた苦笑した。
「じゃあ、確かめてみるか?」
「え?」
どういう意味だろうと顔を上げると原田さんの顔が目の前にあった。
「俺がどれだけ本気で千鶴に惚れてっか」
そう言った原田さんは、身を屈めるとゆっくりと私に覆い被さった。
優しくふわりと唇が触れ、次は角度を変えてもう一度。
その次はもっと長く、深く、何度も何度も唇を重ねた。
「ちゃんと伝わったか?」
長い口付けの後に原田さんがそう尋ねるから、
「は、恥ずかしすぎてわかりません」
そう告げると、
「んじゃ、千鶴が恥ずかしくなんねーよーに慣れさせるしなねーわな」
と言って再び甘くて長い口付けをされた。
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