Θ [03] ぬくもりを離したがらない柔らかい手 (身体の部分) Θ
「……やです」
小さな子供のように、私は頬を膨らませて否定した。
そんな私の額にそっと手を置いて、原田さんは苦笑した。
「やだっつっても俺がいつまでもここにいるわけにいかねーだろ?」
「…………」
「それともなにか? 千鶴は俺に風邪をうつしてーのか?」
「……違い…ます」
具合の悪かった私は、部屋で静かに過ごしていた。
誰かが気を使ったのか誰も部屋には近寄らなくて、
いつもなら色んな足音や話し声がする廊下も、シンとしていた。
この部屋だけ世界から切り取られてしまったようなそんな寂しさが募った頃、
巡察から戻った原田さんが部屋を訪ねてきたのだ。
けれど赤い私の頬と額の熱さから、原田さんはすぐに部屋に戻ろうとした。
だから、
「……やです」
と小さな子供のように私は頬を膨らませて彼を困らせていたのだ。
「やだっつっても俺がいつまでもここにいるわけにいかねーだろ?」
「…………」
「それともなにか? 千鶴は俺に風邪をうつしてーのか?」
「……違い…ます」
ただ人恋しかったのだけれど、それを告げることは自分が子供であると認めるようで嫌だった。
シュンとおとなしくなった私に原田さんはニヤリと笑うと、
「そんなに俺が恋しいんなら、さっさと風邪を治すこったな」
そう言って額に乗せた手をそっと離した。
すぐに私は眉を寄せて引きとめる言葉を告げようとするのだが、
彼は布団から出ていた私の手をそっと握った。
「寝るまで握っててやるから、な?」
「…………はい」
子供のように我侭ばかり言ってしまった私は、恥かしさから布団を口元まで寄せた。
チラリと視線を送れば、原田さんはすぐに微笑むから私の顔はますます赤に染まった。
きっとこの熱は、どれだけ寝ても治らない気がした。
(きっと顔が赤いのは、別の熱のせいだ)