Θ [01] 悲しみに涙で濡れる大きな瞳 (身体の部分) Θ
傷つく姿がみたくなかった。
なのに原田さんは、いつだって私をその背中に庇ってくれる。
「……ど…して……ですか」
私は人じゃなくて鬼なのだ。
目の前で傷が塞がるさまを見たはずなのに、それなのに、
原田さんは私を盾として使おうとはしない。
私を盾にすれば幾分か戦場が楽になるというのに、
出会った頃と同じようにいつまでも一人の女の子として扱ってくれるのだ。
「私…は……傷ついたって大丈夫……なんです」
少しは痛いかもしれないけど、
原田さんが傷ついてきたことに比べたら全然痛くなんてない。
今までこの体が何なのかわからなくて少し怖かった部分もあったけれど、
原田さんを守る盾になれるなら誇らしくも思えた。けれど、
「……んなわけ、あるか」
傷ついた身体で原田さんは笑った。
「その小せぇ身体で、大丈夫なわけがあるか」
屈みこんで視線を合わせると、目に溜まった涙をグィと指で拭い取る。
「俺は、どんな状況であれ譲れねーことが一つだけあるんだ」
敵はすぐ近くまで迫っているというのに、
原田さんはまだ余裕があるのか、悪戯っぽく笑った。
「好きな女は何があっても俺の背中で守るってな」
そう言って一度だけ抱きしめると、原田さんは私の頭を撫でた。
いつもと同じように、この手で撫でられると「大丈夫だ」と言われているようで安心できた。
「だから、てめーは鬼だとか人だとか、んな小せーことは気にしねーで俺の背中に守られてろ」
「なっ」と言ってもう一度笑うと、原田さんは私に背中を向けた。
傷ついて、ボロボロで、それでもいつだってしっかりと守ってくれた広い背中。
「…………はい」
再び溢れた涙でその背中はすぐに見えなくなったけれど、
胸いっぱいに温かさが広がるから、私は嬉しくて泣いてしまった。
(そんなに優しくされたら私はどうやって返せばいいですか?)