Θ 願い事一つだけ Θ
吐く息の白さに私はブルリと肩を震わせた。
もうじき年が変ろうというこの時間、大部屋では宴会が行われていた。
けれどあの人の姿はどこにもなくて、私はそっと部屋を抜け出して廊下を歩いていたのだ。
吐き出した息はいつの間にか闇に紛れ、どこへ行ったのかもう分からない。
けれど彼はきっと部屋にいる。だから、私から会いに行こうと思ったのだ。
「沖田さん、やっぱりここにいた」
「あれ? 千鶴ちゃん。どうかしたの?」
「沖田さんを探してたんです」
「そう? なんでまた」
「い、いいじゃないですか。それより、大部屋に行かないんですか?」
「僕は病気だからいいの。君こそ行ったらどうなの? 平助にお餅全部食べられちゃうよ」
「それこそいいんです。だって沖田さんが行かないなら意味ないじゃないですか」
「ふーん」
「ふーんって……。何か反応してくださいよ」
「え? 反応するところだったの? ごめんごめん、嬉しいよ、とっても」
「……芝居くさいです」
「うーん。どうしたら信じてもらえるかな……あぁ、そっか」
「?」
「こーゆーことでしょ?」
「うわぁ! な、なな……」
「ん?」
「なんで急に抱きつくんですか!!」
「態度で示してみたけどどう?」
「う、嬉しいけど……じゃなくて!!」
「ふふっ、可愛いね」
「……その、恥かしいので離れてほしいです」
「そっか。じゃ、もう暫くこうしてようかな」
「えぇっ」
「嫌?」
「嫌ですよ」
「なに? 聞こえないよ」
「は…、恥かしいし……その……」
「本当の気持ちを言ってごらん?」
「…………。やじゃないです」
「うん、じゃぁもう暫くこうしてようかな」
両腕の中で真っ赤な顔で恥かしそうに俯く千鶴ちゃんが可愛いから、
神様なんて信じちゃいないけど、
今年一年どうかこのこの笑みが消えませんようにと、願わずにはいられなかった。
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