Θ 君に幸あれ Θ
「おめでとうございます、斎藤さん」
「あぁ、おめでとう」
俺の言葉に彼女は不思議そうな顔をした。
彼女の様子に正月の挨拶をしたのではないのだろうかと、思わず俺まで首を傾げてしまった。
そんな俺たちを横から見ていた総司がクスクスと笑った。
「違うよ、一君」
「何がだ?」
「千鶴ちゃんは、一君の誕生日を祝ったの」
「……誕生日?」
言われて気付いた。今日は一年の始まりで、俺が生まれた日。
「そうか……礼を言う」
感謝を込めてそうしきりなおすと、彼女もまたふわりと笑った。
「はい。それと、おめでとうございます」
「……? それは今、聞いたが……」
「ふふ。今度は一年の挨拶だよね」
彼女の言いたいことをすぐに理解してしまう総司に少しだけ不満を覚えた。
なぜ自分には理解できないのに総司には呼吸するように簡単にわかってしまうのだろう。
無意識に寄った眉間の皺に、総司は愉快そうに笑うのがまた癪だった。
「……まとめてしまえばいいだろう」
面倒くさくなってそう答えた俺に、彼女は慌てて口を開いた。
「だ、だめです。どっちも、とても大切なことです」
両手を握り締めてそう答えた彼女に、
「……そうか」
と俺が笑うと、彼女も安心したように微笑む。
「……それはそうと、総司はそこで何をしている」
「やだな。二人に新年の挨拶と、一君に誕生日のお祝いだよ」
その言葉に彼女は慌てて口を開く。
「おめでとうございます、沖田さん」
総司も笑みを浮かべて
「うん、おめでと」
と答えたのだけれど、すぐに苦笑した。
「ごめん。やっぱりそれはもう一回、一君に言ってあげてくれる?」
「え?」
「拗ねてるから」
言われてまた眉間に皺が寄っていたことに気づいた。
「もう、どうして沖田さんは斎藤さんのことすぐ分かっちゃうんですか?」
俺が思ったことを、そっくりそのまま彼女が口にする。
「ん? そんなの、一君のことが好きだからだよ」
からかうように告げると、
「わ、私だって斉藤さんのこと好きです!」
と彼女は顔を赤らめて答えた。彼女の言葉に思わず俺の顔まで赤に染まってしまう。
「一君、僕からのお祝いはこんな感じでどう?」
「へ?」
その言葉に間の抜けた声を上げた彼女は、更に顔を赤くすると
「お、沖田さん。今の……わ、わざと……!」
「そうだよ。良かったね、一君」
総司は手をヒラヒラとさせて退散した。
取り残された彼女は、「うー」と俯いたまま唸り声を上げている。
そんな姿が愛おしくてそっと彼女の頬に触れればガバッと顔を上げて
「さっきのは勢いだったけど、その…私の方が絶対の絶対に斎藤さんの事好きですからね」
捲くし立てるように言った。そんな姿が可笑しくて嬉しくて
「あぁ」
と返事した。
こんなに穏やかな気持ちで一年の始まりを迎えられたのは、きっと初めてのこと。
それが総司のおかげだと思うとまた眉間に皺が寄ってしまいそうだが、
隣に彼女がいてくれるから、後で素直に礼でも告げようかとそんな珍しい気持ちになってしまった。
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