Θ 君と奏でる未来 Θ
膝の上に頭を乗せて目を瞑る平助君の髪に指を絡めながら、私はポツリと呟いた。
「もったいないなぁ……」 「あ?」 その瞬間パチリと目が開いて、平助君が反応をするものだから私は慌てて手を引っ込めた。 「ご、ごめん。起こしちゃった?」 「いや。なんか照れて寝れなかった」 言って平助君はヘヘッと笑うと身を起こした。 「膝枕したいって言ったのは平助君なのに」 「しょーがねーじゃん。してみたかったんだから」 「むぅ。私だって恥かしかったのに」 「はは。悪い悪い」 一緒に生活するようになって平助君と過ごす時間が増えた。 なのに私たちはいつまでたってもこんな調子で、飽きることがない。 互いに顔を見合わせてこんなことを言い合う私たちがおかしくて、どちらからともなく笑った。 戦ばかりのあの日々からは考えられないような、そんな穏やかな時間。 「で? 何がもったいないんだ?」 平助君が思い出したように口を開くから、 「平助君の髪。長かったとき綺麗で好きだったんだ」 と告げた。いつだって私は平助君の背中に守られて、あの長い髪を見てきた。 だから私の中の平助君は、髪が長い印象の方が強い。 「なんだよ、それ。今は好きじゃねーっての?」 私は褒めたつもりでそう言ったのに、 平助君が口を尖らせてそう言うものだから笑ってしまった。 「ち、違うよ。今も好き……だけど、やっぱり綺麗だったし」 すると平助君は鼻をこすって笑った。 「オレは千鶴の髪の方が綺麗だと思うけどな」 言って、平助君は私の背中に回ると櫛で髪を梳かし始めた。 二人で一緒になってから、私の髪を梳くのは平助君の仕事になった。 「自分で出来るのに」 いくら私が言っても、 「オレがしたいからしてんの」 と平助君は譲らない。 けれど彼が自分の髪を手入れしてる姿を見たことのない私は、 「自分の髪はしないのにね」 クスクスと笑う。 すると平助君は「いーんだよ」と告げる。 きっと拗ねた顔をしているに違いないと思ったら可愛くて、私はまた笑ってしまった。 「なぁ、千鶴…」 笑い続ける私を、平助君が呼ぶ。 「ん?」 クルリと振り返れば目の前には待ち構えていた平助君の顔があって、 「おまえ、ちょっと笑いすぎ」 と言って唇が塞がれた。 「……だって、平助君可愛いんだもん……」 面と向って告げるのは気恥ずかしかったから、視線をそらしてそう漏らすと、 「オレは千鶴のが可愛いと思うぜ?」 なんて返されてしまって顔が赤くなってしまった。 そんな私を平助君は「ほらな」と笑って再び髪を梳かしはじめる。 「うぅーっ。髪が長かった頃はそんなこと言わなかったのに……」 頬を膨らませてそう告げると、 「なんだよ。その頃のオレのが良かったのか?」 私の顔を後ろから覗き込んでそう尋ねるから、 私は口元に笑みを浮かべると、 「ううん、今の平助君の方が好きっ」 今度は私の方がその唇を奪ってやった。 平助君は心底驚いたようで目を真ん丸にしてたけど、 「お前には敵わねーよ」 と笑った。 けれど私は知っている。 そんな平助君に私もまた敵わないんだということを。 私たちはきっとこんなふうに年を重ねていくのだろう。 そう思ったら楽しくて嬉しくて、私はまた一人で笑ってしまうのだった。 |