「ああああああっ!!!!」

新野の地へ来たばかりのわたしたちを待っていたのは猫族を歓迎していない人間たちだった。
人間たちへの接触は避けた方がいいかもしれないと話し合っているわたしたちの横で、突然関定が大声をあげた。

「うるさい、関定」
「だってほらほら、見てみろよ」

指差して必死に隣にいる蘇双に何かを伝えている。

「何を」

仕方なく蘇双が視線を向けると、

「あっちにいる女の子かーわいいっ!」

いつものように、ブレない関定がそこにいた。





Θ わたしだって女の子 Θ





「やっぱ人間の女の子ってかわいいよなぁぁぁぁ」

そう言ってだらしなく鼻の下を伸ばしている。

「……バカ。関定ってほんっとにバカだよね」

呆れたような蘇双の声に、

「バカじゃなくて博愛主義の人と呼んでほしいね」

胸を張って関定は答えた。そんなやり取りを聞きながら

「猫族の女の子は可愛くないってこと?」

思わず、そんな言葉を口にしてしまった。

「え?」

わたしがそんなことを言うと思っていなかった関定は、驚いたようにわたしを見つめた。

「いつも人間の女の子を褒めるから、猫族の女の子は関定からしたら可愛くないのかしら」

そう訊ねると、

「いやー。オレらの身近にいる女の子って、要するにおまえだろ?」

と関定は告げる。その言葉を聞いて、

「テメー、姉貴は可愛くねーってことか? 確かに姉貴は武器ばっか振り回して普通の女の子と違げぇけどー!」

なんて張飛が言うものだから、少しだけ傷付いた。そりゃ武器を手にしていることが多いけれど、掃除も洗濯も好きだ。
わたしの反応に関定はぶんぶんと首を左右に振ると、

「ち、違うって。関羽は超絶可愛い!! けど、難易度が高すぎんだよ」

なんて口にした。

「劉備様はもちろん、趙雲も、あの曹操だって狙ってるだろ?」
「あー、確かに」
「オ、オレだって」

関定の言葉に、蘇双と張飛がそれぞれ続いた。

「そんなことないわよ」

けれど、わたしには納得できなかった。
だって劉備のいう好きは家族のようなものだし、趙雲は仲間として好いてくれている。
曹操に至っては、わたしの力がほしいだけなのだ。
それなのに、

「はぁー、わかってないなぁ、関羽は。それじゃあいつらが可哀想だろ」

なんて関定が口にするものだから、なんだかムカムカしてきてしまった。
だってその言い方では彼らの気持ちにわたしが答えた方がいいみたいだ。

「関定だって、わたしのこと可愛いって言うなら、わたしをデートに誘ってくれたっていいじゃない」
「え!?」
「私だって人間の血が半分は流れているんだもの。人間の女の子っていうくくりには入れるはずだわ」
「まー、そりゃそうだけど」

そう言って、関定はゴホンと咳払いすると

「美しいお嬢さん。よければオレとデートしませんか?」

そんな事を口にした。
関定はわたしが言ったから声をかけてくれただけなのだ。
頭ではそう分かっているのに、顔が熱くてたまらない。

「え? 関羽、なんで真っ赤な顔してんだ?」

わたしの反応に関定はそんなことを口にしていたけれど

「そこは気付いても指摘しないものだろ。だからお前はもてないんだよ」

蘇双が呆れたように告げた。

「え、あ、姉貴ぃー」

張飛の泣きそうな顔にハッとして

「い、言われ慣れてないからびっくりしたのよ」

慌ててそう答えた。

「だよなー」
「よ、よかった」

関定と張飛がどこかホッとしたような返事をしたけれど、 蘇双の何か言いたげな視線はいつまでもわたしに突き刺さり
わたし自身も気づいてしまった想いをなかったことにすることはできそうになかった。



ムカムカしてしまった理由はひどく単純。
わたしはずっと関定に、ただの女の子として見てほしかったのだ。




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女の子がいいなら関羽だって良いじゃない…! 関羽ちゃんの片想いだと萌える。