「チッ、今度こそ」

そう口にして、前を歩く女に近づく。

「おい」
「は、はい」

振りかえった女は、オレの顔を見ると怯えた表情を見せる。

「オレについてこい」
「えっ、あ、あの、私……」

困ったように眉を寄せ、それからガバッとすごい勢いで頭を下げると、

「急いでおりますので、申し訳ありません」

逃げるように立ちさった。そんなことをもう何度も繰り返してきた。
オレだって好きで女に声をかけているわけではない。
売り言葉に書い言葉で、郭嘉とどちらが多くの女を連れてこれるか勝負することになってしまったのだ。

「チッ、一体何が問題だというんだ」

忌々しげに舌打ちをして、それから次のターゲットを探す。
幸いなことに街には女が多く、すぐに次のターゲットを見つけることができた。

「おい、女」

今度は逃げられることがないよう、ぐいと腕を掴んで呼びとめた。

「はい?」

そう言って振りかえった女は、オレのよく知る女だった。



Θ オレの好みについての訂正 Θ





「貴様、十三支の女!!」
「か、夏侯淵……!!」

十三支の女はすぐに身を翻して逃げようとしたけれど、オレは掴んだままの腕に力を込めた。

「こんなところで何をしているんだ」
「あ、あなたこそ何をしているのよ」

オレの言葉に、コイツは自由な瞳で睨みながら口を開く。

「さっきチラリと見えたけど、街の人を怯えさせていたじゃない」
「は? オレは、自分がモテることを証明しようとだな」

その言葉に目の前の女はぽかんと間の抜けた顔をした。
仕方なくオレはこんなことをする羽目になった経緯を説明した。

「……なに、それ」

そう言って女はくすくすと笑いだした。
オレはコイツの怒った顔しか知らなかったから、こんな顔で笑うことが意外だった。

「な、なにを笑っているんだ貴様」
「だって、無駄なことじゃない」

あっさりと女はそんなことを口した。

「どれだけたくさんの女の子にモテても、自分の好きな人に振り向いてもらえなければ無意味じゃない」

その言葉はオレの中で突き刺さった。

「……十三支のくせに正論を言うんだな」

素直にそう告げたオレに、

「あなた、顔はいいのに一言余計なのよ」

女は苦笑した。

「……で? あなたの好みのタイプは?」
「は?」
「手当り次第声をかけたって、あなたがその郭嘉に勝てるとも思えないもの。
 それなら、自分にとっての特別な人を見つけて、連れていけばいいじゃない」

確かに、あの郭嘉に勝つにはそれしかないと思った。
それにあいつの好みの女は自分の盾になるような女で、絶対に見つけられないはずだ。
あいつはどうあっても自分好みの女を見つけることができないのだから、オレの方が優位だ。

「オレの好みは、性格が良くて素直でオレの言うことをちゃんと聞く優しい子が好きなんだよ!」
「…………随分普通なのね」

郭嘉たちと同じことを女は言った。

「なんだと?」
「あなたのことだから、てっきり夏侯惇みたいなタイプの女の子がいいのかと思った」

またしても同じことを言われ、

「兄者を愚弄しているのか!」

カッとなって口を開くと、

「ふふ、ごめんなさい」

また普通の娘のように笑うから調子が狂う。
それに、よく考えればこの女は兄者にだって引けを取らない強さで、
多少頭が弱いけれどよく言えば素直で、まぁ優しいと言えなくもない。

「兄者みたいなタイプに、心当たりがないわけでもない」
「え? 夏侯惇みたいに強い女の子なんていたかしら」

オレの言葉にコイツは本当に驚いているようだったから、

「お前、鏡みたことないのか?」

思わずそんなことを口にしていた。

「兄者には劣るが、お前だって一応は強いし素直で優しいと……オレは思っている」

オレの言葉に、

「あ、ありがと」

頬を赤らめ素直にお礼を口にするものだから、ますます調子が狂う。

「べ、べつにお前がオレのタイプだと言ってるわけじゃないからな!」
「分かってるわよ」

あっさりとそう言われて、なんだか腹が立った。
そのムカつきの正体は分からなかったけれど、
きっと兄者に似てると言ったことに対してこいつが軽く受け流したからだと思う。
違っていてもそうに決まっている。それ以外考えたくなかった。







「もういい、このまま郭嘉の元に行くぞ」
「え? ちょっと、まだ女の子捕まえてないんでしょ?」

掴んだままの腕に力を込めてそう告げると、女は驚いたように声をあげた。

「貴様も一応女だろう」
「一応も何も女よ!」
「なら、問題ない」
「問題大有りよ!!」

オレが目指す兄者に似ている女が、今目の前にいるのだ。
それならば、こいつを連れていく以外に郭嘉をぎゃふんと言わせる方法なんて思いつかなかった。

「少しは黙って歩け」
「だ、黙ってるわけいかないわよ。あなたね、ちゃんと分かってるの?」
「分かってる。女版兄者を連れていけばいいんだ。そうに決まっている」
「あなた目的が変わってるわよ。好きなタイプ全然違ったじゃない」
「女版兄者に訂正しておく!!」

無理やりに自分自身を納得させる理由を作ると、ムカムカしながら郭嘉の元へと戻るのだった。




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三国広報部 恋愛観についてより。真っ先に関羽ちゃん浮かんだので接触させてみた