昨日、関羽は夏侯惇(ついでに夏侯淵)にチョコを渡した。 慣れないことをしたと自分でも思ったけれど、高校生活最後のバレンタインということも後押しして淡い期待を込めたのだ。 渡した後は逃げるように帰ったから、どんな顔で受け取ったかは分からない。 ただ、翌日教室で顔を合わすことを頭に入れていなくて、関羽は朝からそわそわと落ち着かない様子で席に着いていた。



Θ もしもし、未来 Θ





「おい!」

隣の席の夏侯淵に声をかけられ、ビクリと関羽は身を固めた。 ついでとはいえ彼にもチョコを渡したのだ。 何かと突っかかってくる彼のことだから、反応が怖い。

「お、おはよう」
「あぁ……じゃなくて……!」

何事もなかったかのように挨拶をしてみたけれど、夏侯淵は明らかに機嫌が悪い。

「昨日のあれはなんだ、貴様」
「あれって……」

とぼけてみたものの、彼の視線に射抜かれて関羽は再び身を固くした。

「石のように硬いあのチョコは何だと聞いている。嫌がらせか?」
「い、石って……!」

あんまりな態度に関羽も言い返した。

「夏侯淵のは溶かして固めただけなんだから、石みたいになるわけないでしょ?」
「いや、貴様の怨念がこもってた。嫌がらせとしか思えん」
「なっ……」

フンと鼻を鳴らして夏侯淵が告げるものだから、関羽は何も言えなくなってしまった。

「たまには女らしいことでもしたかと思ったが、貴様には無理だったようだな」
「な、なによ〜〜〜ッ!」

実力で黙らせようと関羽が拳を振り上げると、

「朝から騒々しいな」

逆隣りの席から呆れたような声がした。

「兄者!」

嬉々とした夏侯淵の声にムッとしながらも、

「夏侯淵がひどいこというんだもの」

頬を膨らませて関羽は答えた。

「相変わらずお前たちは仲がいい……」

そう言って苦笑する夏侯惇に、

「「それはない」」

と二人の声が重なるものだから、夏侯惇はますます口元の笑みを強くした。




「そんなことより、兄者。昨日のこいつのチョコはひどすぎると思わないか?」

気を取りなおすように夏侯淵は告げた。

「ひどい?」
「あぁ、食えたもんじゃなかった」
「なっ」

サラリと口にした夏侯淵に関羽が絶句していると、

「そうなのか?」

夏侯惇はふっと笑って彼女を見つめた。

「わ、わたしは一生懸命作って……」

その視線に耐えられなくなってモゴモゴと答えると、

「ひょっとして兄者……、食べてないのか?」

夏侯淵が指摘した。

「あぁ」

その言葉は、チクリと関羽の胸を痛めた。

「昨日は他のクラスの奴や後輩にももらっていたよな。さすが兄者だ」
「俺なんかが貰っていいのかと思うぐらい、どれも高そうなチョコでうまかったぞ。あとできちんと礼をしないと…」

思い出したように口を開いた夏侯淵に頷きながら答えた夏侯惇。 つまり、関羽のあげたチョコだけ食べてもらえなかったということだ。

「あ、兄者。いくらこいつが嫌いでも、その言い方はさすがに……」

顔を曇らせた関羽に気付いて夏侯淵が告げるのだけれど、 小声で伝えるなど気を使う行為をしなかったためしっかりと彼女の耳に届き、余計に傷つけるだけだった。

「嫌い? 俺が関羽を?」

夏侯淵の言葉に驚いた顔をする夏侯惇。

「馬鹿を言うな、いつ俺がそんなことを言った」
「別に慰めてくれなくていいよ。高校生活最後の思い出作りにってわたしが変なことしただけだし……」

ますます顔を俯かせた関羽に、

「慰めも何も、俺は関羽が好きだぞ」

真顔でそんなことを告げる夏侯惇。

「え?」
「は?」

驚く関羽と怪訝な顔をした夏侯淵の声が再び重なった。

「でも、わたしの作ったチョコは食べたくないんだよね?」
「そういうわけじゃない」
「じゃあ、今日は食べてくれるの?」
「それは無理だ」

きっぱりと告げられた言葉に関羽は首を傾げた。

「兄者、それだと食べたくないって聞こえるぞ」
「食べたくないんじゃないと言っているだろ」
「じゃあどうして……」

真っ直ぐに関羽に見つめられ、夏侯惇は困ったように視線をそらした。それでもじーっとその顔を見つめていると、

「た、食べたらなくなってしまうだろ」

ぽつりと夏侯惇は告げた。

「…………え?」
「だから、食べたらなくなってしまうだろ? せっかく関羽に初めてもらったチョコなのに、もったいないだろ」

真っ赤な顔でそう告げられて、今度は関羽の顔が真っ赤になる番だった。

「う、嬉しいけど恥ずかしいから、昨日のチョコはさっさと食べてほしい」

関羽にそう言われても快諾しない夏侯惇に、

「その、夏侯惇には来年も手作りにする……から」

真っ赤な顔でそう続けると、

「わかった、約束だ」

満足気に夏侯惇が笑うものだから、関羽は恥ずかしそうに俯いた。そんな二人の様子を見つめながら、

「おい」

不服そうに夏侯淵は関羽に声をかけた。

「もちろんオレにもあるんだろうな」
「え?」

あれだけ文句を口にした夏侯淵からの予想外の言葉に、関羽は驚いて顔を上げた。

「なに、ほしいの?」
「ばっ……、誰が貴様からのチョコなんて欲しがるか!」

関羽の言葉に真っ赤な顔で反論する夏侯淵。

「昨日のひどいチョコの代わりに、来年はもっといいのを寄こせと言ってるんだ!」
「なんですって!」

夏侯淵の言葉に関羽もムキになって声を荒げると、

「やはり仲がいいな」

なんて夏侯惇は笑った。そんな様子に

「「よくない!」」

声をそろえて二人が否定すると、

「まぁ、俺と関羽はそれ以上に仲良くなる予定だから負けはしないがな」

と夏侯惇が告げるものだから、関羽はビックリしてすぐに返事ができなかった。それを否定ととらえたのか、

「い、嫌だったか?」

不安そうな顔で夏侯惇が訊ねると、

「ううん。卒業しても、その先の未来に夏侯惇がいてくれるなら、すごく心強いし、嬉しい」

満面の笑みで関羽は答えるのだった。





「正気か? 兄者」

思わずそう呟いた夏侯淵が関羽の拳に沈むのは、一番近い未来の話。







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イベントで無配した学パロSSです。