「関羽さん、ぎゅーっ」
「うわっ!」

人間について知りたいと言った張遼は、わたしと一緒に猫族のみんなと休日を過ごした。 そこで劉備とわたしのいつものやりとりを見ていた彼は、わたしを背後から抱きしめるようになった。



Θ 優しい殺しかた Θ





「すみません、驚かせてしまいましたか?」

しょんぼりと肩を落として、張遼はわたしを開放した。 ただでさえ張遼の気配は分かり辛い。 街で声を掛けられるだけでも毎回驚いていたのに、 それが抱きしめ攻撃にかわってしまったものだからわたしの心臓は毎回バクバクと早鐘を打っていた。

「できたら、急に抱きしめるのはやめてもらいたいんだけど」

やんわりと注意すると、

「では、宣言してからなら良いのですか?」

と、彼はひどく真面目に尋ねる。

「宣言?」
「はい。貴女を今から抱きしめますと告げてからなら宜しいのでしょうか?」

頭の中でそんなやり取りを想像してみる。

「む、むむむむ無理。駄目。心臓が止まっちゃう!!」

物凄く恥ずかしくて、ぶんぶんと頭を振って答えると、

「あなたの心臓が止まってしまうのは私も困ります」

これまた真面目に返された。

「そうなの。困っちゃうから抱きしめるのはやめてもらえるかしら?」

何とか諦めてもらおうとそう口にしたのに、

「でも、関羽さんはすごく抱き心地が良いのです」

と言って今度は正面から張遼はわたしを抱きしめた。 劉備に抱きつかれる時は安心感しかないのに、ドキドキと心臓が騒ぎ立てて落ち着かない。

「温かで、それにすごくいい匂いがします」
「ええええっ!」

戦ってばかりのわたしが『いい匂い』なんて言われたのは生まれて初めてで、 自分でも顔が熱くなるのを感じた。

「おや? 体温が上がったようですが熱でもあるのでしょうか?」
「う、ううん。大丈夫だから」
「そうですか。なら、このまま抱きしめて問題ありませんね」
「……!!」

わたしの心臓はもう爆発寸前だ。

「本当…に……、恥ずかしくて死んじゃう……から」

泣きそうになりながらそう告げると、

「そうですか。残念です」

ようやく張遼はわたしを開放してくれた。

「貴女が死んでしまうのは困りますから、今日はこのぐらいで」
「え? 今日は?」

張遼の言葉に驚いて顔を上げると、

「はい。また明日」

にっこりと笑って彼は立ち去った。

「……本当に恥ずかしすぎて死んじゃうかも……」

彼の背中を見送りながら、わたしが死ぬのは戦場ではなく彼の腕の中ではないかと、 そんなことを思ってしまった。




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張遼ちゃんが壊れる前のあの甘さが大好きです。