「関羽」
そう言ってわたしを呼びとめたのは、夏侯惇だ。
「なに?」
「使え」
彼は何か小さな小瓶のようなものを押し付けた。
意図が分からず首を傾げたまま受け取らないわたしにしびれを切らせたのか、
「来い」
と言って夏侯惇はわたしの腕を掴むと、空いた部屋に引きずり込んだ。
Θ
勇ましい君 Θ
「ちょっと、何するのよ!」
抗議の声を上げると、
「座れ」
彼は部屋にあった椅子を顎で指した。
納得がいかなかったけれど渋々腰を下ろすと、彼もわたしの正面に座る。
そして、小瓶の中身を指で救うとわたしの手をとって甲をなぞった。
「〜〜〜ッ!」
予想外の痛みに思わず夏侯惇を睨みつけると、
「傷を負っていた事にも気づかなかったのか?」
と呆れたように尋ねられた。
そういえば先ほどの戦いで敵陣に突っ込んだ際、弓が手をかすめたような気がする。
けれど、致命傷ではなかったため放置していたのをすっかり忘れていた。
彼が声をかけてきたのは、わたしに傷薬を渡すためだったのだ。
「あ、ありがと」
素直に感謝の言葉を口にすると、夏侯惇はわたしの手を掴んだまま何か考えているようだった。
どうしたのかと彼の言葉を待っていると、
「お前の手はこんなにも小さかったのだな」
ポツリと彼は告げた。
「そりゃ、夏侯惇に比べたら小さいわよ。女だもの」
当然のように答えると、
「普段のお前はあまりに勇ましいからな。時々、女だということを忘れる」
そう言って笑う夏侯惇に、
「わ、わたしはちゃんと女の子よ」
と告げると、彼はわたしの手を持ち上げそのまま指先に口付けを落とした。
「!!」
慌てて手をひっこめたわたしを見て、夏侯惇は笑う。
「なんだ? ちゃんと女として扱っただろう」
「と、時と場所を考えなさいよ。もう」
真っ赤な顔で告げれば、
「お前のそんな顔を見るのは、世界でただ一人だろうな」
彼は満足気に笑っていた。
そんな顔がなんだか悔しくて、わたしは夏侯惇の胸ぐらを掴むと噛みつくように唇を奪った。
「夏侯惇のそういう顔を見るのも、きっと私だけね」
勝ち誇ったようにそう告げると、
「お前は本当に勇ましいな」
と言って夏侯惇が笑い出すものだから、つられるようにわたしも笑うのだった。
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お互いに隙を見ては攻めてればいいと思う!