今年のバレンタインは、ほろ苦い後悔を私に残した。
「いつ終わっても」なんてデータ君が口にしたから、
「本物の恋人じゃない人に、チョコは渡せない」
なんて強がりを言って私は逃げだした。
Θ
溺れる甘さ Θ
データ君の選んでくれた服を着て、私は彼をあの公園に呼び出した。
私が逃げ出した時と同じ時間を指定したのは、バレンタインをやり直したかったからだ。
ちゃんとチョコも作り直して、あの時の片想い用じゃない特別なチョコを持ってきた。
「あ、おーい」
「データ君!」
私の姿を見つけて、ブンブンと手を振るデータ君。
そんな彼のもとへ、私は小走りで近づいた。
「ごめん、待たせちゃった?」
「ううん。ガラにもなく、その……、楽しみ過ぎて早く着きすぎちゃったんだ」
そう言って笑うデータ君に、私は「はい」とチョコを手渡した。
「ちゃんと彼氏用だよ」
にっこりと笑って告げると、
「ありがとう」
彼も嬉しそうに笑ってくれた。
「早速食べてもいい?」
データ君の言葉に、私は少し考える。
好きな人のためにチョコを作ったのは初めてだったから、ちゃんと出来ているのか不安だったのだ。
「えと、あんまり自信がないから……その、家で食べてほしい……かな」
「え? すごく上手だけど」
私の返事を待たずに、すでに箱を開けてしまったデータ君はそんなことを告げた。
「み、見かけだけだよ」
「そんなことないよ」
そう言ってデータ君はひょいとチョコをつまむと、口の中に放り込んだ。
いくら溶かして固めただけだと言っても、やっぱり彼の反応は気になるわけで、
ドキドキとデータ君を見つめていると、何故か急に彼の顔が近づいてきた。
「ちょっ……データく……ッ!」
にっこりと、意地の悪い笑みを浮かべて彼は自分の唇を私に重ねた。
触れた個所から伝わるのは、焦がしてしまったチョコのほろ苦さとは別の甘さだった。
「ほら、甘かったでしょ?」
悪びれた様子もなく告げられても、
こんな体験は生まれて初めての私は口をパクパクと金魚のようにさせることしかできない。
「く、口で言ってくれれば分かったのに」
ようやく声を発した私に、
「あんまり僕の口元を見つめるものだから、キスしてほしいのかと」
彼がそんなことを告げるものだから、私は慌てて彼から視線を逸らした。
「キス、してほしくなかった?」
「僕は君にキスできて嬉しかったのに」
「君の可愛い顔が見れないのは残念だなぁ」
私が顔をそらし続ける限り、彼は口を閉じそうにない。
観念してデータ君を見つめれば、
「視線を合わせるのは有効だって、何べん言ったらわかるんだい? お馬鹿さん」
と言った優しい言葉と共に唇が塞がれた。
本物の恋人同士になったあとのバレンタインは、忘れられないぐらい甘い一日になった。
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「お馬鹿さん」の響きが好きです。確かデータ君に言われたと思う。