データ君から、『今、出てこれる?』というメールが届いた。 すぐさま『どこにいるの?』と返信すると、近所の公園の名が返ってきた。




Θ 1st anniversary Θ





大学生になったばかりの私と新しい生活を初めた彼が、時間を見つけて会うのは久しぶりだった。 近所の公園へ呼び出すということは、たまたま近所を通りかかったか、こちらへ出向く用事があったのだろう。 用事のついでとはいえ恋人に会えるのは嬉しい訳で、 既に着いているだろう彼を待たせないよう急いで公園へと向かえば、ベンチに彼はいた。

「久しぶり」

そう言って片手を上げる彼のもとへと私は小走りで近づいた。 隣に腰を下ろして、

「どうしたの?」

と尋ねれば、

「はい、これ」

手渡されたのは缶ジュースだった。

「?」

よく分からないまま受け取ると、彼は器用に片手でプルタブを開け、 「乾杯」と、反対の手に用意していたもう一つの缶ジュースを私の缶に当てた。

「か、乾杯?」

首を傾げながらそう告げると、データ君は「やっぱり忘れてる」と笑う。

「今日は、付き合って一年の記念日でしょ?」

記念日のことなどすっかり忘れていた私は、驚いて彼の顔を見つめてしまう。

「去年、 100日記念で君が言ったじゃない?  自分のためにあれこれ調べてくれるより、近所の公園で缶ジュースのお祝いでも嬉しいって」

100日記念の日は、まるでお姫様になったような扱いを受けたのだ。 話題の映画を見たり、人気のレストランで食事したりと、 それはそれで嬉しかったけれど、私はデータ君がいてくれれば豪華な食事が缶ジュースでも構わないと告げたのだ。

「そんなわけだから君が喜ぶと思って実践してみたけど……、やっぱ駄目、だよね。こんなデータみたことないし」

反応を示さない私の様子を伺うように、チラリとデータ君が視線を送る。

「ううん。……嬉しい」

ようやく私は、今の気持ちを告げた。

「え?」
「データ君が一年前の発言を覚えててくれたことが嬉しいし、今年も隣にいてくれたことが何よりも嬉しい!」

そう告げると、
「やっぱり君は予測不能だよ」

と彼は苦笑した。

「……でも、悪くない」

ポツリと続けられた言葉に私の胸はじわりと温かくなって、もう一度ジュースで乾杯をした。 来年もまた、データ君が隣にいてくれることを願いながら。




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記念日のイベントで思いついた話。私だったら公園でジュースの記念日は嫌だけど書かずにはいられなかったw