雅様に花束を買ってくるようにと頼まれ、私は両手いっぱいの薔薇を抱えて帰宅した。
「雅様。このお花はどちらへ」
やっとの思いで部屋まで運んだ私がそう尋ねれば、
「お前にやる」
彼は当然のように答えた。
Θ 両手いっぱいの愛 Θ
「ばれんたいん、ですか?」
突然薔薇の花束を贈られ目を白黒させた私に、
雅様はため息交じりに口を開いた。
「そ。エゲレスでは男から女へ花を送るんだって博が言うから」
言われて、朝食の時にたえちゃんが話していたのを思い出した。
「誰かにあげるの」と聞いたら、
真っ赤な顔で「ほ、本命なんかじゃないわよ。義理よ、義理」と言っていたのだ。
「あ、たえちゃんが言ってました。義理っていうのもあるんですよね」
何気なく口にすると、
「ば、ばかじゃないの。どうして僕がお前に義理なんかあげなきゃならなのさ」
今朝見たたえちゃんと同じように、顔を真っ赤にさせて雅様は答える。
「では義理じゃないんですか?」
「当然でしょ」
フンとそっぽを向きながら答えた雅様に、
「義理じゃないということは、本命っていうことであってますか……?」
と私は答えた。
雅様から本命のばれんたいん。
つまり雅様は私のことが……
「…………ッ!!」
私が結論にたどり着いたのと同じように、雅様も言葉の意味を理解したのだろう。
耳の先まで真っ赤にした顔で、
「ぜ、全然あってない!!」
そう言って私を部屋から追い出した。
雅様がこういう態度をとるときは図星を刺された時で、きっと私の思い違いではないはずだ。
「三倍返しはちょっと難しいですけど、お返し楽しみにしてて下さいね」
固く閉ざされた扉に向かってそう告げると、
「期待なんかしてないけど、忘れたら殺すから」
念を押すような言葉が返ってきて思わず笑みがこぼれた。
来月は何を贈ろうかと考えながら、私は両手いっぱいの花束を落とさぬよう注意しながら部屋へと戻った。
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