雅様に言われて百貨店まで同行した私に、彼は「さっさと選んで」と急に告げた。
「……えと、何を……でしょう?」
唐突すぎる言葉に尋ねると、
「贈り物をするんだけど、面倒だからお前が選んで」
「えぇ!?」
とんでもないことを彼は告げた。
Θ 真心ヲ君ニ Θ
「わ、わわわわ、私が選ぶのですか?」
「うん」
その言葉に、私は百貨店の中をうろうろと歩く。
「贈り物……なんですよね」
「うん」
ということは、まずは相手について知らないと贈り物を選ぶのは難しい。
「相手の方って、どんな方ですか?」
「馬鹿で愚図で間抜けで、おまけにゴミ」
サラリと彼の口から出てきたのは、どれも聞き覚えのある言葉ばかりだ。
雅様は私だけでなく、色んな方を「ゴミ」呼ばわりしてるらしいことはわかった。
けれど、これでは情報が足りない。
「学校のお友達ですか?」
「違う」
「では、先生でしょうか?」
「違う」
学校関係ではないとなると、ご兄弟なのかもしれない。
「正様ですか?」
「違う」
「勇様?」
「違うし」
「では……」
「っていうか、僕があいつらに贈り物とか意味わかんないし」
私の問いに、雅様はなぜかプリプリと怒り出した。
「そもそも、相手は男じゃないから」
「あ、では千富さんですか」
ポンと手を叩いて納得した私に、
「はぁ?!」
と雅様は声を上げた。
「違いましたか?」
「千富は馬鹿でもないし愚図でもないし間抜けでもないだろ」
「た、確かに……」
では一体誰への贈り物なのだろう。
雅様の周りで「ゴミ」と呼ばれているのは使用人全てに当てはまる。
けれど、「馬鹿」で「愚図」で「間抜け」なんて呼ばれている人物なんて、一人しか思い浮かばない。
「も、ももももも、もしかして、その……わ、私……でしょうか?」
自分でもおこがましいと思ったけれど、それ以外に思いつかなかった。
「馬鹿じゃないの?」から始まって散々罵られるんだろうと身構えた私に、
「だから、お前に選ばせてるだろう」
真っ赤な顔で雅様は告げた。
「それなのにお前は学校の相手とか教師とか意味わかんないし。そんなに僕に贈り物されるのが嫌なの?」
「めめめめ、めっそうもないです。ただ、意外すぎて……、その、言葉が出ません」
てっきり、誰かに贈るものを私が選ぶんだと思っていたのだ。
「それならそうと、最初から言って下されば……」
「贈り物をするんだけど、面倒だからお前が選んでって、言ったじゃん」
「そ、そうですけど……」
「なら、さっさと選んでよ」
と言われても、急に贈り物と言われてもピンとこない。
けれど、選ばなければ雅様の機嫌はますます悪くなるだろう。
「そ、の。今すぐにと言われても何も浮かびませんので、パーラーでお茶をご一緒出来れば嬉しいです」
そう告げると、彼は「ふーん」と納得しながら、
「見た目通り安い女だね」
雅様はそんなことを告げる。
「そうかもしれませんけど、雅様と一緒にお茶が出来るなんてすごく光栄じゃないですか?」
「と、当然だよ」
「なら、私には十分すぎることです」
にっこりと返せば、
「この僕に奢らせるなんてお前ぐらいだし」
と雅様は告げ、
「むかつくけど、まぁ、仕方ないからまた奢ってやらなくもないけど!!」
と言って足早に出口へと移動した。
それはつまり、またお茶をご馳走してくれるという彼なりのお誘いだった。
「はい。ぜひ」
「普通遠慮するでしょ」
振り返った雅様は
「馬鹿じゃないの」
と呟きながら苦笑していた。
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