「結婚前提にしてるんだし、そろそろいいと思うんだよね」
「……といいますと?」
何のことだろうと首を傾げると、
「次の段階ってこと。告白もしたし、手も繋いだし。ってなったら次は口付……」
「いいいい、一度して頂きました」
私が専属と結婚の違いを悩んでいた時にされたことを思い出して即答すると、
「僕は一度じゃ嫌なの!」
と返されてしまった。
Θ 瞳を閉じて Θ
雅様が私に口付けたいと思って下さるのはすごく嬉しいことだ。
でも、私はまだその準備ができない。心臓が口から出てしまうぐらい緊張てしまうのだ。
雅様を見つめることができずに、逃げるように視線は地面に落ちた。
「はる」
けれど、雅様はそれすらも許してくれず、名を呼ばれた私は条件反射のように彼を見つめた。
彼の真っ直ぐな目に、不安げな私が写っていた。
緊張を和らげようと、視線をあちこちに動かす。
私と違って髪の毛がサラサラだなとか、
女の私よりもお肌がすごくきれいだなとか、
意外とまつ毛も長くて羨ましいなとか、
そんなことを考えていたら、いつの間にか雅様との距離が縮まっていた。
驚いて固まってしまった私を見ながら、
「あのさ、こういう時って目とか閉じるんじゃないの?」
雅様が呆れたように告げたのだけれど、
「は、はひっ」
私の頭の中はいっぱいいっぱいだった。
「返事した割に、わかってないじゃん」
苦笑する雅様に、
「だ、だって、とても緊張して……その、体がいうことを聞きません」
素直にそう告げれば、
「あっそ。でも僕はこのまま口付けるけど」
なんて返されてしまった。
「えっ!?」
驚いている間に、再び雅様の顔が近づく。けれどそれは、先ほどとは少し目指す場所が違う。
ふわりと前髪を持ち上げられ、おでこに優しい感触。
続けて瞼に手を乗せられ、そっと閉じた瞼の上にも同じような感触。
「わわっ」
そんな場所に口付けられたのなんて初めてで、思わず声を上げると、
「なにそれ」
と、彼が笑った気配が瞼に伝わった。
そして、唇の上にもふわりと口付けが落とされた。
「まったく、僕にここまでさせるなんてお前ぐらいだよね」
その言葉にそっと目を開けると、
「べ、別にお前以外にはしようとも思わないからいいけどさ」
照れたような雅様の顔が目に入った。
「雅様」
「なに?」
「私も、雅様以外にはしてほしくありません」
にっこりと返せば、
「と、当然でしょ。この馬鹿」
と言って彼は顔を逸らしてしまった。
長い付き合いの私には、それが照れ隠しだとすぐに理解でき、顔がにやにやしてしまった。
それに気付いた雅様に
「馬鹿」
と言われたけれど、「好きだ」と言われた時と同じような響きを感じて、嬉しくなった。
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