「雅様、明日は銀座へお使いはありませんか?」
一日の終わり、にっこり顔で明日の予定を確認する。
いつもなら「明日はどうされますか?」と尋ねるのに、急に私から指定したものだから、
「なに、急に」
雅様は身構えたような返事をした。
Θ 偶然予報 Θ
「本日、千富さんのお使いで銀座へ行ったのですが、パーラーの前を通りましたら明日より期間限定のシュウクリイムがあるようでして」
銀座へ行きたい理由を告げると、
「ふーん」
使用人が許可なく寄り道なんてできないと知っている彼は、興味なさげな返事をした。
だから、私も勝手に話を続けることにした。
「お使いがあればまた銀座へ行けますし」
「ふーん」
「もしかしたら学校帰りに銀座へ寄り道した雅様に会えるかもしれませんし」
「ふーん」
分厚い本を読みながら、てきとうな返事を繰り返す彼に、
「そうなったら雅様がまた奢って下さるかもしれないわけですし」
と口にすると、
「なにそのご都合主義」
すぐさま、本から顔を上げて返事があった。
一応、話は聞いてくれていたようだ。
「思うだけは自由ですよね?」
にっこりと返せば、
「あっそ」
彼は再び本へと視線を落とした。
「それで、お使いはありますか?」
再び最初の質問へと戻ると、
「本を受け取ってきて」
ポツリと雅様は告げた。
「畏まりました。午後からの方がよろしいですか?」
私の言葉に、
「は?」
彼は驚いた顔を見せた。
「いえ。偶然連発があるかもしれませんし」
七夕を思い出してそう告げると、
「い、言っとくけど僕が奢るとかありえないから」
ピシャリと返された。けれどその顔は真っ赤に染まっていたから、
「会うのは否定されないんですね」
すかさずそう口にすれば、
「そ、それは……」
彼は言葉を探すように視線をさまよわせる。
だから、彼が次の言葉を発してしまう前に口を開く。
「なら、もしかしたら奢って下さるかもしれないですね」
「か、勝手にすればッ!」
予想通りの反応に、
「はい。それでは失礼します」
彼の気が変わらないうちに部屋を退散しようと話を切り上げた。
頭を下げてドアまで下がると、「あ」と、彼の声が聞こえたので、
「はい、何でしょうか?」
と尋ねれば、
「明日は早退して午後一で本屋に行くから」
雅様はそっぽを向いたまま口を開く。
そんな姿も雅様らしくて笑みを浮かべたら、「殺すよ」と言葉が飛んできて驚いた。
雅様は横を向いてても私のことなどお見通しのようだ。
「お、お前が忘れてるかもしれないから念のため」
「畏まりました。それなら私も午後一で本屋に伺いますね」
雅様の言わんとする意味を理解して頷くと、
「か、勝手にすれば!」
雅様はいつも通りの返事をするものだから、私はますますにっこり顔を浮かべてしまった。
明日は幸せな偶然がたくさん起こりそうだ。
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