「仕事もしないで、なにやってんの?」
そんな雅様の声に私はハッとして立ち上がった。
洗濯の途中、ふと庭の端に目が止まった。
なんだろうと近づけば、たんぽぽが咲いていた。
誰かに踏まれてしまったのかぺたんこになっていたけど、
それでも田舎で見たものと同じような、綺麗な花を咲かせていた。
Θ タンポポ Θ
「たんぽぽを見ていたんです」
「ふーん。ゴミが雑草みて何が楽しいの?」
雅様の言葉は相変わらずトゲがあるけれど、
質問を返してきたということは、会話を続ける気があるようだ。
「楽しくて見ていたわけではありません。ただ、踏まれても踏まれても、決して枯れないからすごいなって」
「ゴミが雑草を感心、ね」
そう答えた雅様の声にはどうでもいい響きがあった。
自分の境遇と似たこの花を馬鹿にされたような気がして、
「いけませんか?」
思わずそう返してしまった。
「別にそんなの、感心するほどじゃないじゃん」
「え?」
「だって、お前も僕たちに何されてもやめないじゃん」
その言葉に、私はまじまじと雅様を見つめてしまった。
だって、私自身がたんぽぽと自分を重ねたように、雅様も私とたんぽぽを重ねて下さっていたからだ。
「だから、そこの雑草となんら変わりないでしょ?」
告げられた言葉に思わず笑みがこぼれた。
「なにそれ。気持ち悪いんだけど」
雅様の言葉に、
「だって。雅様が私の頑張りを認めて下さったみたいで」
と素直に返せば、
「そ、そんなわけないじゃない!」
素直じゃない返事が返ってきた。
「それに、私、たんぽぽが好きなので、嬉しいです」
そんな雅様ににっこりと告げる。
「雑草なのに?」
「はいっ」
一生懸命なその姿に、いつも元気をもらっている。
そう続けたら、
「ふ、ふーん。まぁ、僕も嫌いじゃないけど」
「え?」
予想外の言葉に驚いてしまった。
「お、お前のことじゃないよ! そこの雑草!!」
「は、はい」
まだ何も言っていないのに雅様はそう告げると、プリプリと怒って洗濯場を後にしてしまった。
残されたのは私とぺたんこのたんぽぽだったけれど、この一生懸命な花が今まで以上に大好きになった。
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