「やっぱりお前って変な臭いする」
雅様にそう言われ、私はくんくんと自分の腕の臭いをかいだ。
「特に臭いませんけど」
「だって嘘だから」
続けられた言葉に、またからかわれたのかとがっくりと肩を落とした。
Θ イケナイフタリ Θ
雅様が当主になられて、また帝都で暮らせることになった。
結婚は今すぐじゃないということなので、私は今まで通り専属のお仕事をしていた。
嘘の結婚が本当になっても私たちの関係は変わらず以前のままだった。
けれど、
「掃除が残ってますので失礼します」
そう言って雅様の前を通り過ぎると、背後からぎゅっと抱きしめられた。
時々こんなふうに雅様は私に触れるようになった。それが唯一変わったことだ。
「ま、雅様!?」
慣れない私は顔を赤らめることしかできない。
それをいいことに、雅様は更に行動を続ける。
「こうすると、やっぱり臭いがする気がする」
雅そう言って首筋に顔を埋めるものだから、私は首をすくめる。
「雅、様」
「なに?」
恥ずかしいことをしている当の本人は涼しい声で、
されている私だけが意識しているのはなんだかひどくずるく思えた。
「離して下さい」
「やだ」
「お願い、します」
「…………」
私の言葉に雅様はしばらく考え込んでいるようで、無言になってしまった。
あまり拒絶ばかりしていると嫌われてしまうんじゃないかと不安になったけれど、今の私は雅様専属の使用人なのだ。
いくら結婚の約束をしているとはいえ、公私混同はできない。
「じゃあさ。手を離してやるから、ちょっと振り向いてよ」
雅様の言葉に、私は何の疑いもなくそのまま振り返った。
その瞬間、
「!!」
唇にふわりと何かが触れ、私は思い切り後ずさった。
「何その態度。なんかムカツク」
「ま、ままま、雅様。い、いい、今」
驚きすぎてうまく言葉が出てこない。
パクパクと口を動かしながらなんとかそう告げると、
「ん? 接吻したんだけど」
あっさりと返されて私は口元を押さえてさらに距離を取る。
「なにそれ。嫌なの?」
「いいい、嫌じゃありませんけど」
「そ。ならおいでよ」
近づけば何をされるかなんてわかっていた。
けれど彼に逆らえないのは、専属使用人だからというだけではない。
ゆっくりと近づけば、じれったそうに伸びた彼の腕に引き寄せられて、私は再び彼の腕の中にいた。
公私混同しているのは雅様だけではないようだ。
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