「いいか、これは俺が貴様に宛てた手紙だ」
そう言って、庭の掃除をしていた私の目の前で、勇様はびりびりと手紙を破り捨てた。
「ここを片づけておけ」
いつだったかと同じようにそう言われ、
「畏まりました」
すぐさま箒でかき集めた。
そんな様子を見ていた勇様は、
「何故繋ぎ合わせて読まぬのだ!!」
何故か急に怒りだした。
Θ 破られた手紙に込められたもの Θ
「あ、の?」
片づけろと命令をされ、それに従った。
それなのに怒られた意味が分からず、思わず尋ねた。
「以前の貴様だったら、繋ぎ合わせてでも読もうとしただろ」
「うっ……」
覚えのある私は、何も言い返せなかった。
「わざわざこの俺が貴様に書いた手紙は読まぬというのか」
「で、でしたら……、その、直接お渡し下されば……」
ごにょごにょと指摘すると、彼は「何だと」と私を睨みつけた。
そもそも、彼が目の前で手紙を破らず手渡してくれたのなら、怒られずに済んだのだ。
「そんなこと、恥ずかしくてできるわけがないだろう!」
きっぱりと言い切った勇様の言葉に、目が点になる。
「何か恥ずかしいことを書かれたんですか?」
「なっ…!!」
私の指摘に勇様は驚くと、
「き、気の迷いだ。やはり捨てて置け!」
破った手紙をぐりぐりと足で踏みつけ、怒って部屋へと戻られてしまった。
「……なんだったんだろう」
そんな背中を見送ると、私はしゃがみこんでびりびりになった手紙を繋ぎ合わせた。
これは私に宛てた手紙なのだから、怒られることもないだろう。
「えっと…、【明日……銀座…に……連れ……て行って……やる。……勘違…い……するな。……貴様…は荷物持ち……だ】」
細かく破ったわけではないおかげで、簡単に解読できた。
つまり、明日、荷物持ちとして銀座に連れて言って下さるらしい。
ただ、買うものは特に決まっていないということまで正直に書いてあった。
「わざわざ書かなくていいことまで……」
手紙を書いている勇様を想像して、思わず笑みがこぼれた。
怒っていると思ったあの態度も、今思い返せば照れていたのだろう。
相変わらず勇様の行動はよく分からないけれど、明日の外出が楽しみに思えた。
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