ピンポーンと、訪問にしてはマナー違反な時刻のインターホンに玄関まで出向いてみれば、

「たらいまー」

と、ろれつが回らない上にやたらと上機嫌な恋人の姿があった。

「合鍵持ってるのになんでわざわざ鳴らしたの?」

テレビが面白いところだったのに、と文句混じりに訊ねれば、

「らって、シンのかおがいますぐみたかったんらもん」

なんて言葉が返ってくるものだから、こちらの顔まで真っ赤に染まってしまった。





Θ  酔  Θ





「あれー? シンもよってるの〜?」

赤く染まった顔を指摘するように、ぐいと顔を近づけて彼女は楽しそうに笑った。 普段はこちらが顔を近づけるだけでも怒るのに、

「シンもよっぱらいだ〜。おそろい〜」

なんていってオレに抱きついてきた。 普段なら喜ぶべき行動も、酔っぱらい相手では手放しで喜ぶことはできない。 酔っ払っているこいつの全体重がかかっているから、重いだけだった。

「ちょっと、これじゃあ身動きとれないんだけど」

本気で迷惑がってそう口にすると、

「あるきたくないから、シンがはこんで〜」

オレの首にぎゅっと両腕を絡めてそんなことを口にした。

「なにそれ。お姫様だっこでもしろっていうの?」

冗談めかして告げると、

「うん。だっこ〜」

と、こいつはますますオレにしがみついた。仕方なく、言われた通りに抱き上げてみた。 腕の中では完全にオレを信頼しきっているようで、目を閉じてしまっていた。 少し身を屈めれば簡単に唇を奪えるのに、それさえできないもどかしさ。

「……信じられない」

酔ってる時でさえオレに我慢させるこいつに思わず本音がこぼれた。 ベッドの上にそっと下ろすと、温もりが離れるのが嫌なのか、

「シーンー」

と、こいつの手がオレを離さない。

「ちょっと、酔っ払いはもう寝なよ」
「よってないからー、はなれちゃヤダー」

普段は絶対に口にしたないような言葉を言われ、理性がぐらりと揺れた。

「酔ってないならこのまま襲うけど」

どさくさに紛れてそんなことを口にすると、

「いーよー」

なんて返事が返ってきた。 もちろん酔った相手の言葉なんて話半分に聞き流すものだけれど、

「忠告はしたからな」

いい加減、据え膳を食わずにいるなんてオレには出来なくて、 ベッドで眠るこいつにゆっくりと顔を近づけた。 酔っているせいかほんのりと色づいた頬と潤んだ瞳で見つめられると、 本当に求められているような錯覚が起る。

「シ、ン……」

オレを呼ぶかすれた声に吸いこまれるように顔を近づける。 まさに唇が触れるという直前、

「ん゛……、きもち、わるい……」

と真っ青な顔で申告された。

「ちょっと……!」

このまま襲うかトイレまでつれていくか一瞬考えて、なくなくオレは後者を選ぶのだった。




» end

なんだかんだでシンは最後まで面倒見てるといいなと。