「おい」とか、「なぁ」とか、シンは私の名前を呼んでくれない。
今までだってそうだったから別に問題はないけれど、最近、寂しいと思うようになった。
シンのいう【特別な関係】というものに、私も慣れてきたせいかもしれない。
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魔法のことば Θ
「次の休みってなにしてるの?」
バイトの帰り道を並んで歩いていると、唐突にシンはそう口にした。
「んーと、バイトはないから……」
「知ってる。だから聞いてるの」
その言葉に私はハッとして尋ねると、
「……もしかして、シン。私をデートに誘ってる?」
「もっと早く気づけ、バカ」
と何故か怒られた。
「お前の行きたい場所でいい」
お前、と呼ばれたことにしょんもりしながら、
「えっと、じゃぁ動物園かー」
と明るく振舞って答えると、
「ガキじゃないんだから却下」
すぐさま却下されてしまった。
「ええと、じゃあファンシーショップとかー」
「そこに行ってオレは何するの? お前が買い物するの見てればいいわけ?」
相変わらずのトゲトゲした言い方でシンは口を開いた。
だから
「私の行きたい場所って言ったのに」
と怒ったように告げると、
「デートっぽい場所を選ばないお前が悪い」
また怒られた。
「……シン」
「なに?」
振り返ったシンに、私は何も答えない。
「なんだよ。そんなに動物園行きたかったの?」
私の不機嫌な理由が動物園だと思い込んでいるシンは、ため息交じりに口を開いた。
「違うよ」
俯いたまま、私は答える。
「じゃあファンシーショップか?」
「それも違う」
頭を振る私に、シンのため息がまた一つ落ちた。
「言いたいことがあるなら言えよ。言わなきゃわかんないだろ」
「言ってくれないのはシンのほうじゃない」
顔を上げてまっすぐにシンを見つめると、私は告げた。
「私はいつもいつもシンってちゃんと呼ぶのに、シンは私のこと呼んでくれない」
「呼ぶだろ」
「ううん。お前とかだもん」
私の言葉にシンは暫く考え、
「別に怒ることでもないだろ」
と告げる。けれど私には大問題だ。怒ることなのだ。
むくれた私に気づいて、ハァと盛大なため息を漏らすと、
「機嫌治せよ」
と、シン。
「治らない」
私はますます頬を膨らませて答える。
「なぁ」
「そんなんじゃ治らない」
「頼むから」
「治りません」
ツンとした態度で答えると、
「今更名前で呼ぶとか照れるんだよ。分かれよ、……マイ」
早口だったけれど確かに最後に小さく私の名前を呼んでくれて、
「……ムカツク」
デレた私の顔を見てシンは悪態をついたけれど、
たった一言で幸せな私は、聞かなかったことにした。
» end
私の周り、シン好きな人多いからいっぱい書いてみたよ! 受け取れコノヤロウ!(笑)