今日は久しぶりのデートだった。 といっても受験が終わるまではどこかに出かけることなんてできなくて、 コイツの部屋で勉強させてもらうことにした。

「……でね、サワと一緒に買った服がこれで……」
「ふーん」

「ミネには髪の毛のアレンジの仕方を教わってね」
「ふーん」

問題集を解きながら、コイツの話を聞いてやる。 それがいつものオレたちのスタイルだったのに、今日は何故か機嫌が悪かった。

「シンの……バカッ」
「何が?」

突然の罵声に視線だけ向けると、彼女は子供の頃よくしていたように頬を膨らませていた。 仕方なくシャーペンを置いて、

「どうしたんだよ」

と、尋ねると、

「私を見てなんとも思わないの?」

そう告げられた。





Θ  誘惑リップ  Θ





「別に。いつも通り」

たっぷりと10秒ほど見つめてそう感想漏らせば、

「信じられない!」

と、枕が飛んできた。もちろんそんな攻撃などなんとも思わないのだけれど、

「トーマならすぐ気付くのに」

その言葉だけは聞き流せなかった。

「ハァ? なんでトーマが出てくんの?」
「だって、トーマは優しいもの」

何かあればコイツは決まって「トーマは優しい」と告げる。 アイツが散々甘やかした結果がこれだ。 ハァ、と諦めたようにため息をついて、

「気付かないで悪かった。で? 何がどう違うんだ?」

こちらから折れる。 ここで変に意地を張るとコイツはトーマのところへ逃げ込むからだ。

「この服はこの前サワと買ったやつで、髪型はミネにアレンジ教えてもらったやつなの」
「そ…………」

そんなことかと言いかけて、慌てて飲み込む。

「なんでオレに会うだけなのにオシャレすんの」

この後、誰かと会うつもりなんじゃないかと、変に勘ぐってしまう。 けれど、そんなオレの言葉に、

「……シンに会うからだよ」

コイツは恥ずかしそうに俯きながら呟いた。

「久しぶりに会う彼氏には……、可愛いって思われたいもの」
「へぇ。それって……誘ってんの?」

距離を詰めて顎に手をかけ、俯いた顔を持ち上げてやる。 マジマジと見つめるその顔は、いつものよく知る顔なのにどこか大人びて見える。

「メイクも変えた?」
「グ、グロス……だけ」
「あぁ、ほんとだ。うまそう」

ふっくらとした唇に視線を移したら、自然と吸い込まれていった。

「……シ、ン……」

コイツがオレを見てオレの名を呼んで、ただそれだけのことなのに胸が熱くなる。

「オレのために塗ってくれたってんなら、オレがとってやんのが礼儀だよね?」

ペロリと唇を舐めて尋ねると、バフッと再び枕が飛んできたけれど、 スイッチの入ってしまったオレはそんなことでは止まらなくて、 結局参考書を進めることができず、次回繰り越しとなった。



» end

何だかんだでシンは常にキスすればいいよ。