Θ 0707 Θ





ケントさんの机の上には、真っ白な短冊が一枚。 それについて、彼はまったく興味がないようで読書に夢中だ。

「……あの」
「なんだ?」

声をかければすぐに返事はあった。

「短冊、書かないんですか?」

そう尋ねれば、

「君にはどうでもいいだろう」

なんて言葉が返ってくるものだから思わず反論しそうになる。 ケントさんと一緒にいると、何故か喧嘩腰になってしまう。 ふぅ、と小さく深呼吸して、

「どうでもいいですけど……、好奇心です」

素直にそう告げる。 なんでも出来るこの人が短冊に願うことが興味深かったのだ。

「そうか」

ケントさんは短くそう答えると、

「……だが、私は特に書くことがない」

と短冊を指で弾いた。

「願いがないってことですか?」
「いや、願いはあるのだが、笹の葉に願いを吊るせば叶うなどと迷信を、この年になってまで信じる気にもならない」

ロマンの欠片もない返答に、私はこっそりとため息をついた。 この人にロマンを求めてならないことなど、付き合い始めた時に十分理解していた。

「こういうのは気持ちの問題ですよ」
「……というと?」

私の言葉に、彼は本から顔を上げて私を見つめた。 意識をこちらに向けられれば、あと一押しだ。

「書くことで自分の願いを認識することが大事なんです」
「認識すれば、無意識に近づけようと努力すると?」

挑戦的なケントさんの瞳に力強く頷くと、

「ならば証明してもらおうか」

と、ケントさんは笑った。

「君の願いが叶ったら、私も信じることにしよう」

それは、ケントさんの数学パズルを解くことよりも簡単に思えた。 だって、

「私の願いはずっとケントさんは一緒にいたいってことですよ?」

そうにっこり笑って私の短冊を見せると、彼は苦笑して本を閉じるのだった。




» end

七夕限定で公開していたものです