小学生の時は乱暴者だったトラも、中学では少し大人になったのか他校生と喧嘩することも減った。
高校生になった頃には昔のトラを知っている人の方が少なくて、「少し悪そうなところがいい」なんて評価になっていた。
「中身は全然変わってないのに。みんな騙されてるんだわ」
ぽつりと漏らした私の横で、
「あんだよ。文句あんのか」
とトラは私を睨みつけた。
Θ
チョコレート革命 Θ
私がそんな感想を改めて漏らしたのは、今日がバレンタインだからだ。
校内の生徒だけじゃなく、他校生まで登下校を狙ってトラにチョコを渡していたのには驚いた。
「もらえるもんはもらう主義なんだよ」
ニヤリと笑うトラに
「最低」
と答えて私は一人でスタスタと歩き出した。トラもすぐに私を追って歩き出すと、
「あの……、西園寺君。ちょっといいかな」
一人の女子生徒が道を塞いだ。
彼女は中学から一緒で、トラのことが好きだと噂が出たこともあった。
「勢いで告られたりしてな」
私の耳元でトラがぼそりと呟いた。
思わず顔を見つめると、挑戦的な目が「だったらどうする?」と問いかけていた。
「か、勝手にすればいいじゃない」
とっさにそう答えると、
「あぁ、勝手にすんぜ」
トラは彼女の方に歩き出してしまった。
トラが離れるにつれ、私の顔はくしゃりと歪む。
私が素直になれないのなんて小学生からの付き合いのトラは知っているはずなのに、
あっさりと歩き出してしまったからだ。
「……かないでよ」
絞り出た声は小さすぎて、トラの耳まで届かないはずなのに、
「ったく。そーゆーのは早く言えよな」
ガシッと肩に回された腕に顔を上げればにんまり顔のトラがいた。
「……なん、で」
「あの女はさっさと追っ払ったぜ。最初から興味ねーし」
トラは笑う。
「なんで……」
再び同じ疑問を口にすれば、
「お前の本心が知りたかっただけっつったら、信じるか?」
口の端を持ち上げてトラは告げた。
「し、信じないっ!」
咄嗟に口にしたものの、目にいっぱいの涙を浮かべた現状では、
トラがあの子のもとへ行ってしまうんじゃないかと不安で仕方なかったと言っているようなもので、
「告れとまでは言わねーけど、欲を言えばお前からのチョコを今年こそ欲しいんだけど?」
と意味深な顔でニヤニヤされてしまった。
あんな顔を見せてしまった段階で私の答えなんて分かっているのに、
あえて尋ねるトラは心底ずるいと思った。だから、
「あるわけないじゃない」
精一杯の嘘をついた。
本当は去年も一昨年も、鞄の奥底にチョコを用意していたのだ。
けれど、意外とモテるトラを知ってしまったから、渡せずにいたのだ。
「あっそ」
何事もなかったかのように再び歩き出したトラに安堵しながら、これでいいのかと問いかける。
もしかしたら人生最大のチャンスを、棒に振ったのかもしれない。
今回はたまたまトラが断ってくれたけれど、次はすんなりと受け入れてしまうかもしれない。
そう思ったら私はチョコをしっかりと右手に握りしめ、
「トラッ!」
彼を呼びかけるとともに大きく振りかぶっていた。
「!?」
振り返ったトラは飛んできたチョコの箱に驚いていたけれど、難なく片手でキャッチしていた。
それから箱と私の顔を交互に見つめ、
「女にチョコをぶん投げられたのは生まれて初めてだな」
なんて笑いながら私との距離を縮めると、
「返品しねーけど文句はねーよな?」
ぐいと顎を持ち上げて尋ねてきた。だから、
「返品なんてさせる気もないわよ」
と言い返せば、
「へっ、上等」
満足気に笑うトラに噛みつくように唇を奪われていた。
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コピー本の修正版です^^