レポートがヤバいというのはちゃんと聞いた。
それでも理一郎と一緒にいたいから、私は黙って彼の隣にいた。
Θ
寂しさの周波数 Θ
「理一郎……」
つい先日もそんな不満を漏らして、余すところなく抱きしめられたのは記憶に新しい。
けれど、それでも私は常に理一郎不足なのだ。
「理一郎ってばー」
甘えた声を出して彼の方に寄りかかっても、
理一郎は私ではなく、参考書にばかり視線を向ける。
「……もう、ちっとも話を聞いてくれない」
レポートが大変だというのは理解していた。
数学の得意な私ですら苦労させられたレポートだ。
数学の苦手な理一郎には本当に大変なのかもしれない。
けれど、そこはまぁ愛の力で……と言われると素直に喜べないけど、
それでも私と一緒にいる時間を作るためにも、徹夜してでも片付けて欲しかった。
( 私だけ徹夜して片付けたなんて……面白くないじゃない )
私ばっかりが理一郎を大好きなんじゃないかと、そう思うのが悔しくて仕方なかった。
本に載せられた手に、指を絡める。
それでも、今日は本当に忙しいようで、「邪魔だ」とも言ってくれない。
「理一郎のばーか」
子供のような悪口にも、
「………………」
理一郎は無言だ。
「何よ。構ってくれないなら来てもいいなんていわないでよ」
我がままを言ったのは私だ。
理一郎はちゃんと、「構ってやれないけどいいのか」と尋ねたのだ。
それなのに、本当に構ってもらえないとなると、寂しくて仕方ない。
「こんな気持ちにさせるなら、会えなくて良かったのに」
私だって、もうあの頃のままではない。大学生になったのだ。
一般的には数は少ないけれど、理一郎以外の交友関係だってある。
「私だって、休みの日に遊ぶ相手ぐらいいるんだから」
それに、CZのメンバーとは今でも繋がっている。
「終夜に仕事現場を見に来ないかって言われてるし、
央と円にだって駅前に新装開店したHANABUSA系列のレストランのランチを食べにこないかって誘われてるし……」
そんなことを言いながら立ち上がると、途端に手首をつかまれた。
「なに?」
「行くのか……?」
そこで今日初めて理一郎と目が合った。
あの時、夢の世界であった理一郎みたいに、切羽詰った泣きそうな顔で私を見つめている。
「行かないわよ」
にっこり笑うと、私は再び理一郎の隣に腰をおろし、
そのままコテッと頭を理一郎の肩にもたれかからせる。
「喉かわいたなーって。でも理一郎と離れたくないから、もうちょっとだけ我慢するわ」
「そうか」
そう言って理一郎はまた参考書に視線を戻してしまったのだけれど、
先ほどまでの寂しい気持ちは吹き飛んでいた。
だって、理一郎も私が傍にいないと寂しがるってわかったから、その事実が嬉しいのだ。
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課題を必死にやった撫子が可愛かったのでついw