終夜がモテるのは今に始まったことじゃない。
それでも、目の前の行動はおもしろくない。
Θ
そんなキミが好き Θ
「時田君、あの……これ」
そう言って真っ赤な顔で女の子が差し出したものは、可愛らしくラッピングされた箱だ。
今日、二月十四日はバレンタインというやつで、朝からこんな光景を何度も見る羽目になった。
「すまんな」
終夜は何も考えていないのか、はたまたバレンタイン自体を理解していないのか、
彼女である私が隣にいるというのに、あっさりと受け取ってしまう。
きっと仕事でもファンの子からたくさんプレゼントをもらっているのだろう。
そんなことをぼんやりと考えていると、
「どうしたのだ?」
いつの間にか終夜が私の顔を覗いていた。
「あれ? 女の子たちは?」
さっきまで終夜にチョコを渡すため、数人の女の子が列を作っていたはずだ。
それが少し目を離しただけですっかりいなくなってしまった。
「そなたがぼんやりとして元気をなくしているようだからな。帰ってもらったぞ」
簡単にそう答える終夜にため息が漏れた。きっと女の子たちは私を睨みながら帰ったに違いない。
( 頭痛い…… )
私が元気をなくしていた理由なんて、終夜がチョコをもらっていた以外にないというのに。
原因を作った本人が、
「どうかしたのか?」
と心配そうな顔をするものだから、恨みがましい目で見つめてしまった。
私の視線に終夜はただただ首を傾げるばかりだ。
その顔を見ていたら意地を張っていても全然伝わらないことに気づいて、
「…………で」
ポツリと口を開いた。けれどその声は思ったより小さくて、私は再び口を開く。
「チョコ、もらわないで」
ここまでストレートに言えば、いくら鈍い終夜でも気づいただろう。
そう思って恥ずかしさから俯いていたが、反応の無さが不安になって顔を上げると、
「なぜだ?」
私が顔を上げるのを待っていた終夜に、真顔で尋ねられた。
「なぜって……、そんなの私が嫌だからよ」
告げると終夜は少し考え込むように口をつぐんだ。そして、
「ちょこ……とやらは、そなたの好物ではなかったか?」
なんて言葉が返ってきた。まさかとは思うけれど、その一言で今朝の終夜の行動が理解できたような気がした。
「もしかして、私がチョコ好きだから、いっぱいもらえば喜ぶと思ってもらってたの?」
バカな質問だと思った。
どこの世界に自分の彼女がチョコ好きだからと、他の女の子からのチョコをほいほい受け取る彼氏がいるのだろう。
けれど相手は終夜なのだ。
バカみたいなことも、彼にはまっとうな理由になるのだ。
「そうだが、何か問題でもあるのか?」
いつも通りの真顔で、彼は答えた。
「大ありよ!」
想像通りの答えに、思わずへなへなと私はその場にしゃがみこんだ。
私がどんな気持ちで今日一日を過ごしていたのかなんて、終夜は知りもしないのだ。
それがなんだかひどく悔しい。
「終夜、バレンタインっていうのは、女の子が好きな男の子にチョコを渡す日なんだよ」
ぽつりと告げると終夜は
「なるほど」
と納得し、
「私はモテモテだな」
と、満面の笑みで答えた。それが余計にムカついて、
「じゃ、モテモテの終夜は私からのチョコなんていらないわよね」
なんて可愛げのない言葉が口からこぼれてしまった。
すると終夜は私と同じようにしゃがみこむと、
「何を言う。撫子にモテなければ意味がないではないか」
と大真面目な顔をして言うものだから、今まで散々妬いていたが馬鹿らしくなってしまった。
思わず笑いがこぼれた私に、
「なんだ? 何か楽しいことでもあったのか?」
と終夜は首を傾げるのだけれど、
「内緒」
と答えて私は暫く笑い続けた。
「よくは分からぬが、そなたが楽しそうなら私も楽しいぞ」
終夜はそんなことを告げて暫く私に付き合ってくれた。
» Back
コピー本修正版です^^