じっと私の顔を見つめたまま、終夜は同じ言葉で尋ねる。
「本当に風邪ではないのか?」
今のこの状況をどう見たら風邪だと思えるのだろう。
恨みがましい目で睨みつけても、当の終夜はただただ心配そうな目で私を見つめる。
Θ
ドキドキが止まらない Θ
時間は少し前にさかのぼる。
今日は久しぶりのデートで、私は昔だったら考えられないぐらい浮かれていた。
着ていく洋服は前日に決めていたはずなのに、
朝起きたらやっぱり気分が変わってしまい、洋服選びに時間がかかってしまった。
そんなわけでほんの数分遅刻してしまったのだ。
「ごめんね、終……や?!」
声をかけたと同時に、その両手に抱きしめられていた。
「え? ちょっ……」
困惑する私に、終夜は何も答えないまま更に抱きしめた腕に力を込めた。
「終夜ってば……」
ここは人通りの多い駅前で、
ただでさえ終夜は人の目を集める容姿をしているのに、
こんなふうに目立つことをすれば人の注目を余計に集めてしまう。
「ちょっと、恥ずかしいから……」
そう言って無理やりに身体を離すと、
「なかなか来ぬから心配したぞ」
と終夜は告げた。
ほんの数分の遅刻だったから直接謝った方が早いだろうと連絡しなかった私の落ち度だ。
「ごめんなさい」
素直に謝罪の言葉を口にすると、
「なんぱ、というものに遭遇しておるのかと思った」
終夜の口から想像していたものとは別の言葉が飛び出した。
だって、普通デートに遅刻した相手を心配するって、
事故とかそういうのだって相場が決まっている。
「わ、私モテなてんだからそんな心配……」
慌てて口を開けば、再び終夜の手が伸びて私を抱きしめる。
「何を言う。撫子のような素晴らしい女性を私は知らぬぞ」
そのまま私を真っ直ぐに見つめたまま、
終夜は私の思考がショートするほどの賛辞の言葉を述べた。
「…………っ!」
ようやく頭が動いた時には、公衆の面前で終夜にキスをされていて、
「終、夜……!!」
強く言ったところで終夜はやっと私を解放してくれたのだけれど、
「どうしたのだ? 顔が赤いが風邪か?」
と、再び斜め上の発言をしたのだ。
じっと私の顔を見つめたまま、終夜は同じ言葉で尋ねる。
「本当に風邪ではないのか?」
今のこの状況をどう見たら風邪だと思えるのだろう。
恨みがましい目で睨みつけても、当の終夜はただただ心配そうな目で私を見つめる。
「誰のせいだと思っているのよ」
口を尖らせ告げると、終夜は何を思ったのかチュッと口付ける。
「!?」
再び顔を赤らめた私に、
「なるほど、私のせいだな」
と、嬉しそうに終夜は笑った。
デート前から十分すぎるほどドキドキさせられた私は、
これ以上ドキドキさせられたら恥ずかしすぎて死んでしまうんじゃないかと、
そんな馬鹿な心配をしてしまった。
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久しぶりに会うとデート前から心臓破裂する勢いだといいなと。