Θ 眠れ、眠れ Θ




今日も終夜は狛犬の上で寝ていた。 見張りの楓に部屋に来てもらうように呼んでもらうと、 終夜は「身体は大丈夫か?」なんて尋ねてきた。





「……えと、もうすっかり大丈夫よ」

寧ろそれは私の台詞なのにと困惑しながらもそう答えれば、

「そうか。私はいまだに身体中が痛むのだ」

と終夜は首を回した。

「……前にも言ったと思うけど、狛犬の上で寝てたからじゃないかしら」

そう告げると、

「おお、なるほど。そういえば以前にもそんな指摘をされたな」

終夜はにっこりと笑った。 その隣で以前と同じく、楓が笑いをこらえていた。

「だがしかし、私は狛犬の上ぐらいしか寝る場所がないのだ」
「はい?」

続けられた言葉に、困ったように楓へと視線を向けた。 私の視線に、

「殿先生の家は今、資料で散らかっていて……」

と付け加えた。
目が覚めたその日、終夜の家で説明を受けた。 確かにあの部屋はパソコンやら資料で埋め尽くされていた。 元の世界で見た終夜の部屋と大違いだった。

「ならせめて、柔らかい場所で寝たらいいんじゃないかしら」

寝る場所がなくて家を出たのは理解した。 けれど、何もわざわざ固いものの上で寝ることはないのだ。

「ふむ。それも一理あるな」

私の言葉に頷くと、終夜は立ちあがって私へと視線を向ける。 いや、この場合は私の背後にあるベッドを見ているのかもしれない。

「あぁ、なんだったら少しここで休んでも……」

とベッドを開けるように座っていた場所を移動しようとすると、

「撫子はそのままでよい」

終夜に制された。 そのまま私に近づいた終夜は、なぜか私の隣に腰を下ろし、

「……え?」

すとん、と私の膝に頭を下ろした。

「ふむ。狛犬の上より快適であるな」

満足気な終夜の言葉に、私は何がなんだか現状を理解できずにいた。 だって、私は一応人質というやつで、終夜はここの幹部で、 こんなふうに触れ合っていいわけが無いのだ。 それなのに、

「なんだよ、殿先生。イチャつくなら先にそう言ってくれよ」

私の監視である楓までそんなことを言って、部屋を出て行ってしまった。 取り残された私は、このモヤモヤした気持ちをどうすればいいのか分からず、 終夜の頬を地味に指でつついては彼の安眠を妨害するのだった。




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受け入れられすぎな人質に爆笑。