Θ
水も滴る Θ
「……ふむ。これが、水も滴るというアレだな。どうだ、滴っているか」
頭から思い切り水をかぶったにも関わらずなぜか終夜は得意げだ。
「そうね……ものすごく滴っているわ」
とりあえず現状をそのまま報告すると、
「そうか、そうであろう」
終夜は嬉しそうに笑った。
「そうじゃなくて!」
思わずそのまま終夜のわけのわからないテンポに流されそうになり、
私は慌ててスカートのポケットからハンカチを取り出した。
「風邪ひいちゃうわ」
そう言って終夜の髪や顔を拭いてやる。
「案ずることはない。いずれ乾く」
「放置するより拭いた方が早いわ」
止めさせようとする終夜の手を掴むと、
私は有無を言わさずにゴシゴシと終夜を拭いた。
最初は嫌がっていた終夜も、諦めたのか私にされるがままになっていた。
「よし、これで大丈…………」
そこでハタと気付いた。
濡れた終夜を拭くということは、終夜に接近するということで、
顔を上げれば目の前に終夜の整った顔があった。
「ご、ごめんなさいっ!」
何故かはわからないけれど、咄嗟に謝ってしまった。
「何を謝る必要がある?」
終夜も私の行動が理解できぬといわんばかりに首を傾げている。
「えと、無理やり拭いた……から?」
私自身何に対して謝ったのかよく分かっておらず、
疑問系で訊ねると、
「それなら案ずることはない」
とキッパリと終夜は告げた。
「撫子からは良い匂いがした。私はそれを堪能させてもらったのだから寧ろ例を言うのは私の方だ」
真顔でそんなことを言われても、私はただ真っ赤な顔で口をパクパクさせるしかない。
だって普通に生活していたら、小学生がそんなことを言うなんて想像もつかないからだ。
「そ、そう。それならいいわ」
なんとかそれだけ告げると私はパッと終夜から距離をとった。
決して終夜の言葉にドキドキしてしまったわけではない。
終夜だって、意味も無くただ単に思ったことを言ったまでなのだ。
終夜は学校でも一番の変人で、普段ボケボケしているくせに面と向かって突拍子も無いから驚いただけで…………。
だからこそ、この胸のドキドキは意味も無いんだと私は自分自身に言い聞かせるように何度も頭を振った。
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終夜はそんな撫子を見て笑っているといい(´ω`)