「なんで暗いの怖くないの?」
「だって、全然怖くないよ?」

ヤス君の言葉に、私はにんまりと答えた。

「え、うそだあ!」

ヤス君は予想通りの反応をするから、なんだか可笑しくなってしまった。




Θ 星に願いを Θ




「ほら、上、上」

私は空いた方の手で、空を指差す。

「え?」
「星すっごく綺麗なんだもん」
「あっ……」

つられて空を見上げたヤス君の強張った表情が、少しだけ緩んだ。

「私も遭難している時は下を向いてて……、全然気がつけなかったんだけどね」
「……本当だ。全然気付かなかった」

私がこの星空に気付いた時と同じように、ヤス君もこの満天の星空に心奪われているようだった。

「ずっと暗い中いたから、目が暗闇に慣れてて、星がはっきり見える」

そう言ってまじまじと星空を眺めながら

「うわー…、おれ怖がっててもったいないことしてた」

なんて言うから、私は隣でくすくすと笑った。 さっきまであんなに怖がっていたのに、もうこの暗闇が怖くなくなったようだ。

「いつもはこんな星空見えないよね」
「そうだね」

そう言って歩き出しながら、ヤス君が正直に暗闇が怖いと告げてくれたように、 私も少しだけ素直になろうと、伝える予定のなかった言葉も続けた。

「あとね。隣にヤス君がいるから」
「え?」
「ヤス君がいるから、真っ暗でも平気だよ」

笑って繋いだ手を持ち上げると、

「え? だっておれ、全然怖がってて役に立ってないっていうか……」
「何言ってるの」

おろおろと言葉を続けるヤス君に、

「彼氏がいてくれれば怖いものなんてないよ。そう思わない?」

いつもヤス君が恋愛指南してくれるときのように尋ねた。 ヤス君はきっと今、真っ赤な顔をしているのだろう。 暗闇で表情は分からないけれど、繋いだ手が熱を帯び始めたからなんとなくそんな気がした。

「そ、そうスね。おれも、可愛い彼女がいてくれるから、強くなれる気がする」

ヤス君の言葉にほんのりと胸を温かくしながら、私たちは星空を歩いた。 さっきまで遭難して怖かった道もヤス君と一緒ならとても楽しくて、 ビーチまでの道のりが、少しでも長く続けばいいなんて、星に願ってしまった。




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遭難イベントの楽しかった帰り道はこんな感じで