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君の手 Θ
「そろそろ帰るか」
と言ったツンデレ君の言葉に店内の時計を見上げると、カフェに入ってから二時間も経過していたようだ。
今日は一日、ショッピングを楽しんでいた。帰る前に休憩しようとカフェに入ったのだけれど、
暖房が心地よくてまったりと過ごしてしまったのだ。
伝票を持って立ち上がるツンデレ君の後に続いて店の外に出ると、とっぷりと日が暮れていた。
「待ってろ、今迎えを……」
そう言って携帯を取り出したツンデレ君に、
「あの…さ。提案なんだけど、今日はその、歩いて帰ろうよ」
私は口を開いた。
「さっきまでのんびりしてたから疲れてないし」
と続けると、
「この寒いのに何言ってんだよ」
ツンデレ君はため息交じりに告げた。
冬というだけでも寒いのに、今はもう日が暮れているのだ。
ツンデレ君の言う事はもっともだけれど、私にも譲れないものがある。
「……だって、その……、手を繋ぎたいんだもん」
「…………は?」
ツンデレ君は数秒沈黙した後、「何言ってるんだ、お前」という顔で私を見つめる。
4月から付き合い出した私たちは、もちろん手を繋いだことだってある。
昨日だって一昨日だって、学校から帰るときに手を繋いでいたばかりだ。
けれど、今日はショッピングということもあって私が行きたい店を先導して、ツンデレ君は後ろからついてくるばかりだった。
今日はまだ、手を繋いでいないのだ。
「手ぐらい車ん中ででも繋げるだろ」
ジッとツンデレ君を見つめると、彼は根負けしてそう口にしたのだけれど、
「外で繋いだほうがツンデレ君の温もりを感じるもん。……駄目?」
私は引き下がらずにそう告げた。
「か…可愛いじゃねぇか、チクショウ」
「へ?」
「な、なんでもねぇよ」
そう言ってツンデレ君は携帯をしまうと「ほらよ」と言って私に手を差し出してきた。
3月には彼氏彼女ではなくなってしまうけれど、今はまだ私の彼氏であるツンデレ君の手をぎゅっと握りしめた。
あと何度手を繋げるのか分からないけれど、私はきっとこの温もりを忘れない。
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冬辺りから終わりが見えて寂しくなる関係が好きです