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曇りときどき晴れ Θ
恋愛というのはもっと楽しいものだと思っていた。なのに、相手の顔色を覗わなければならない現状は、ひどく不満だらけだ。
「…………ハァ、何がいけないんだろう」
机にうっぷして思わず呟いた。ツンデレ君とは最初の日に希望要望以外は話しかけるなと言われた。
だから、『一緒にお昼が食べたいんだけど』とか、
『一緒に帰りたいな』とか、
お願いしている立場というのもあって下手に要望を口にしたのだけれど、
それなのに、一言『面倒だ』と言われてしまった。
「面倒ってことは駄目ってことだよね。…………ハァ」
ため息をついてゴロンと顔の向きを変えると、
「ハーイ、元気?」
「わっ、オトメちゃん!」
オトメちゃんが私の隣に腰掛けていた。
「どうしたの?」
ガバッと起き上がって尋ねると、
「それはアタシの台詞。元気ないね。オウジサマのことで悩んでるの?」
優しく問いかけられて、思わず俯いてしまった。
「オトメちゃん……」
「ん?」
「恋愛って、なに?」
今更こんなことを言うのは、卑怯かもしれない。
私はオトメちゃんたちではなく、番長たちに協力を頼んでいるのだから。
「私は全部……、我慢しないといけないの?」
けれど、オトメちゃんはふわりと笑って口を開く。
「それは、二人の問題だからオウジサマにちゃんと聞かなきゃ。それが出来ないならオウジサマのことは見限って、アタシと付き合う?」
その言葉に顔を上げると、いつもの可愛らしいオトメちゃんではなく凛とした顔のオトメちゃんがいた。
「オトメ…ちゃん?」
「アタシならあなたにそんな顔させたりしない。楽しい恋愛が出来ると思うんだ」
真っ直ぐに私を見つめる顔に、あぁ、オトメちゃんは男の子だったんだと今更ながらに理解した。
「甘い言葉だって毎日囁くし、我慢させないであなたの希望を全部叶えてあげる」
「……あ、の」
それもいいかなと思った。
オトメちゃんなら女の子の気持ちをよく理解しているだろうし、想像していた楽しい恋愛がすぐに送れると思った。
けれど、
「……ごめん」
頭の中に、ツンデレ君の顔が浮かんだ。怒られてばかりだけれど、どうしても彼を嫌いになれなかったのだ。
「あーぁ、フラれちゃったかー」
パッといつものように笑うと、明るい口調でオトメちゃんは告げた。
「だったら、廊下で待ってるオウジサマにちゃんと不満をぶつけないとね」
「……え?」
オトメちゃんの言葉に廊下に視線を向けると、ツンデレ君の姿が見えた。
「……どう、して」
疑問を投げかけると、
「お前が言ったんだろうが」
バツが悪そうに教室に入りながらツンデレ君は口を開いた。
「一緒に帰りたいって」
「え……、だって、面倒だって……」
そう言ったらオトメちゃんがクスッと笑うものだから、ツンデレ君はジロリと睨みつける。
「面倒だと言ったが、嫌だなんて言っていない」
「……へ?」
ツンデレ君の言葉が理解できず、困ったようにオトメちゃんに視線を向けると、彼はますます口元の笑みを強くした。
「要するに、一緒に帰ってくれるって」
「そう……なの?」
ツンデレ君の顔を見上げると、彼はチッと舌打ちをして私の手首を掴んだ。
「ぐずぐずするな」
「わっ」
慌てて反対の手で鞄を掴むと、
「バイバーイ」
オトメちゃんがヒラヒラと手を振っていた。
スタスタと前を歩くツンデレ君に遅れないように、私は鞄を抱えて早足で歩く。
歩く速度が早いとか、掴まれたままの手首が痛いとか、どうせなら手を繋いでほしいとか、文句は沢山浮かんだけど、
私の口から零れたのは「ありがとう」というたった一言だった。
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あんなに悩んでもツンデレ君の行動一つで解決する話。