Θ ループした朝 Θ




「わー…、篠原君の部屋ってすごく綺麗に片付いてるんだね」

そう言って先輩にまじまじと部屋を観察され、居心地の悪さを感じる。

「本を借りるんじゃなかったんですか? さっさと選んでさっさと帰って下さい」

いつも通り先輩と一緒に帰ることになって、他愛もない話をしながらぶらぶらと寄り道をしながら帰った。 辺りが暗くなって家に向かい始めた頃に、お互いの趣味が読書ということもあり本の話題になった。 先輩は図書館で本を借りるらしく、ループが始まってから読みたい本がずっと貸し出し中だとぼやいていた。

「その本ならちょうど持ってますので明日にでも……」

と言い掛けると、

「ほんと? じゃあ今から行ってもいい?」

なんて普通に答えられ現在の状況に至ったのだ。





暫く時間がかかるだろうと、ベッドに寄りかかりながら読書を始める。

「わー、この本もあるんだー」
「あ、これ読みたかったんだよね」
「あー…こっちも気になる……」

本当に、黙るというのを知らない人だと思った。 先輩の声が気になって、本の世界に浸れない。

「試し読みでも何でもして下さい。興味があるようしたら全部貸しますから」

そう言って鞄から携帯を取り出すと音楽を再生させイヤホンで耳を塞いだ。 先輩は数冊選んで僕の隣に腰掛けたようだったけれど、そこには触れずに本の世界に浸った。





トンという軽い衝撃と僅かな重みに、本から顔を上げギョッとした。 いつの間にか眠ってしまった先輩が、僕の肩に寄りかかっていたからだ。

「……先輩」

声をかけても反応はなく、手元の本をどけるとため息をついて再び声をかけた。

「先輩」

今度は先程より大きな声。けれど、先輩は起きる気配はない。

「本当になんなんだ、この人は……」

いくら読みたかった本のためとはいえ、こんな時間にほいほいと男の部屋に上がるなど常識が欠けている。

「いつかお菓子につられて誘拐されても知りませんよ」

思わずそう苦笑すると、

「……も、う……食べ…られ…ない…よう……」

と先輩は笑う。

「僕がこんな気持ちなのに何の夢を見ているんですか、あなたは」

無防備な寝顔に、何故かイライラした。 僕のことを男だと認識していないのか、 それとも、誰に対してもこんなにも無防備でいられるのだろうか。

「僕があなたを傷つけないと、そう思っているんですか?」

ゆっくりと先輩に覆いかぶさる。こんな時間に男の部屋で爆睡して、 起きない奴が悪いんだと心の中で言い訳をしてゆっくりと顔を近づけた。










気付いたら、朝になっていた。 もちろん部屋には先輩の姿は無く、ループと同時に自分の部屋に戻ったのだろう。

「…………はぁぁぁー」

昨日の自分はどうかしていた。 その一言で片付ければいいはずなのに、 目を閉じれば先輩の寝顔が鮮明に思い出されて、激しく机に頭を打ち付けたい衝動に駆られた。



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