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かわいいひと Θ
あんな恥ずかしいことがあったというのに、
ループすると忘れてしまうのか、私たちはまたカフェテラスへと足を運んでいた。
そこで大好きなパフェを注文して、意味深に笑う篠原くんの顔を見て、
ようやくあの恥ずかしかった出来事を思い出した。
「わっ! こ、今回はいいからねっ。私、一人で食べられるから」
そう言ってスプーンへと手を伸ばすと、
「何を言っているんですか、先輩。僕にこうして欲しくてまた、パフェを頼んだんじゃないですか?」
篠原くんの方が一足早くスプーンに手を伸ばしていた。
「はい、あーん」
にこにこと、実に言い笑顔を浮かべている。
「いや、だから、ね。前にも言ったけど、これは恥ずかしいからスルーしたいんだって」
そう言ってやんわりと断ろうとしたのだけれど、
「これ。やる方も結構恥ずかしいんですよ。ほら、先輩」
と言って口元にスプーンを差し出されてしまった。
それでもまだ踏ん切りのつかない私に、
「早くしないと、周りの視線一人占めですよ」
篠原くんは笑った。
彼の言うように夏休みの午後のカフェテラスは、沢山の人でにぎわっていた。
「……うん」
あむ、とパフェに食べくと口いっぱいに甘さが広がった。
何度か餌付けされるようにパフェを食べていると、
バカップルっぽいこの行動が注目を集めているのではないことに気付いた。
「ねぇ、篠原くん」
「なんですか?」
コーヒーを飲みながら、篠原くんは続きを促すように私へと視線を送った。
「周りの注目を浴びてるのって、篠原くんのせいだと思うよ」
告げると篠原くんは
「何を根拠にそんなことを言うんですか?」
と尋ねた。
「だって、注目してるのって同世代の女の子たちだし、カッコイイって口々に言ってるよ?」
にんまりと笑って「モテモテだね」と続けると、
「興味ありません」
篠原くんは再びコーヒーを口に運んだ。
「え? そうなの? あの子も、あっちの子も、みんな可愛いのに」
「一般的にはそうであっても、僕は何とも思いませんよ」
そう言われて思わず篠原くんをガン見してしまった。
「勿体ない」
思わず呟いた私に、
「僕は毎日、可愛い人を見てますから」
意外な言葉が返ってきた。
「へぇ」
そんな可愛い人が篠原くんの身近にいるのかと思いながらパフェの残りを口に運ぶと、
「……にぶいひとですね」
ポツリとそんな声が聞こえた。「へ?」と思って顔を上げた時には、
篠原くんは先程と同様に涼しい顔でコーヒーを飲むばかりで、
その言葉の真意は分からないままだった。
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可愛い人=葵です(´∀`)