「姫様〜。せっかくわたくしが人間になったのですから、デートしましょう」
そんなことをウンバラが言ったのは、貴重な休日の朝だった。
Θ
楽しいデート Θ
「なんで外で待ち合わせなのよ」
同じ家に住んでいるというのに、ウンバラたっての希望で私は広場の入り口にいた。
「それにしても遅いわね」
そんな言葉を漏らすと、ちょうどウンバラが歩いてくるのが見えた。
私の姿を見つけ、慌てて駆け寄るのかと思えば、なぜか彼はため息をついた。
「なんなのよ、その態度」
「姫様こそなんなのですか!」
ウンバラは私の台詞をそのまま返した。
「初デートなんですよ?」
「は?」
「姫様ともあろう方がデートのいろはも分からないなんて、嘆かわしい!!」
ウンバラは大げさなリアクションでため息をついた。
「普通待ち合わせに遅刻するのは彼女の役割じゃないですか!」
「は?」
どこの少女漫画だと思わずつっこみを入れたくなった。
ぐっと耐えている私に気づかないのか、ウンバラは目の前で寸劇を始める。
「『待った?ダーリン』と言って小走りで駆け寄る彼女(ちなみに姫様のことですよ)
それを『いや、今きたところさ。ハニー』と言って待ち構える彼氏(わたくしです)
っていうやり取りを、やーりーたーいーのーでーすー」
「はぁぁぁ……」
返事の代わりに私は盛大なため息をついた。
「やーりーたーいーのーでーすぅー」
駄々っ子のようにもう一度うざい台詞を口にするウンバラに、
「いやよ」
キッパリと告げると
「姫様。わたくしの初デートなんですよ? 一緒に楽しくしようという努力はして下さらないんですか?」
なんてことを言われてしまった。
確かにウンバラの初デートなのだから彼の好きにさせればいいのだけれど、
一緒に楽しくというのであれば話は別だ。ウンバラの提案はただ単に私は恥ずかしいだけだ。
「あんたのこっぱずかしい提案は聞いてやれないけど」
そう前置きするとウンバラと指を絡めて手を繋いだ。いわゆる恋人繋ぎというやつだ。
「楽しいデートってやつならやってあげなくもないけど、どうする?」
私の言葉にウンバラは私の言葉を理解して
「はいっ!」
と驚くぐらい大きな声で笑った。
その笑顔が見れただけでも私は十分楽しいのだけれど、悔しいからウンバラには告げないことにした。
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ヤスとの初デートがウンバラにしか見えなかった件について(笑)