Θ
狼がでた Θ
ウンバラが人間になったことを忘れていたわけではない。
ただ、ウンバラが怒る理由もわからないし、
そもそもウンバラのために私が妥協するのもおかしな話だと思う。
そんなわけで、なんとなくいつものスタイルが崩せないのだ。
お風呂上りにいつものように薄着でキッチンへと向かい、冷蔵庫から牛乳を取り出す。
やかんを火にかけたウンバラは、食器棚から私にグラスを差し出すと、私を見つめ固まった。
「ひ、ひ、ひ、姫様! なんて格好しているんですか! はれんち!」
やっと動いたと思ったら、いつもと同じことを口にする。
私は「はいはい」と聞き流しながらリビングのソファーへと移動するのだけれど、
ウンバラは「話は終ってません」と付いてくる。
「わたくしが狼になっちゃったらどうするんですか」
「…………」
そんなことを言うウンバラを、私は黙って見つめる。
「なんですかその目」
「いや、なんかほら、あんたってもう家族みたいな感じだから……ねぇ?」
上から下から視線を動かしてみたものの、狼になるとか、想像できない。
「ねぇ? じゃないですよぉ〜。ウンバラだっておとこのこなんですからね!」
そう言ってウンバラは私の正面に回るとソファーの背もたれに手を着いた。
「……に、逃げないんですか?」
「逃げるも何も、何がしたいの?」
テレビが見えないんですけどーなんて、空気の読めない言葉は飲み込んだ。
口にしたらきっと、「テレビとわたくしと、どっちが大事なんですか!」なんて話になるからだ。
「こ、このまま姫様に口付けたりなんかしちゃったり?」
「ふーん」
そのままじっとウンバラの顔を見つめると、彼は困ったように目をそらした。
「狼になるんじゃなかったの?」
いっこうに顔を近づけようとしないウンバラにそう告げると、
「なっ……。ひ、姫様! そんな軽々しく誘わないで下さい!」
何故か怒られた。
「軽々しくって……、相手があんただから言ったんだけど?」
「へ?」
「あ、ちなみに軽んじてるわけじゃなくて、ウンバラが相手だからって意味ね」
にんまりと笑って告げると、ウンバラはいっそう顔を赤らめたけれどはにかむように笑った。
なんだかんだいって、私はこの笑顔が好きなのだ。
「わかりました、姫様」
そう言って、ウンバラはゴクッと唾を飲み込むと、
「ウンバラ、行きます!」
と言って身を屈めた。
近づいてくるウンバラの顔に合わせて私もそっと目を閉じた。
次に目を開けたとき、私たちの関係は何か変わっているのだろうかなんて考えながら。
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きっとお湯が沸いてビクッてなってウンバラは姫様にキスできないと思う!