Θ ある朝の出来事 Θ




布団の中でぬくぬくしていると、突然ベリッとその蒲団が引き剥がされた。 それまで心地のいい温かさだった空気は一気に凍りつく様なものになり、 消えてゆく温かさを逃すものかと身を丸めた。

「ウンバラ! あんたいつまで寝てるのよ!」

声の主は姫様だった。人間になった私を、精霊の時と変わらず傍に置いてくれる。 そして精霊の時と変わらずに、遠慮がない。

「だって姫様。寒いですよー」

モゾモゾと身体を動かして答えると、

「冬なんだから仕方ないでしょ!」

と姫様はピシャリと言い放った。

「姫様。わたくし、精霊に戻ります」

真面目な顔でそう告げれば、

「あんた、夏もそんなこと言ってたじゃない」

懐かしの右アッパーが飛んできた。

「だって、寒いです〜、眠いです〜」

布団の上にひっくり返りながら駄々をこねれば、

「……まったく」

呆れたような姫様の声が聞こえた。 そんな声に慌てて身体を起こすと、ふわりと柔らかいものに包まれた。

「……姫、様?」
「これで少しは温かいでしょ?」

精霊の時は感じなかった温もりが、確かにそこにはあった。この温もりが離しがたくて、

「今日一日このままでいてもいいですか?」

そんなことを尋ねれば、

「駄目に決まってるでしょ」

と姫様は身体を離して告げた。しゅんと肩を落とした私に、

「顔を洗って、ご飯を食べて、歯を磨いて、そのあとなら良いわよ」

にっこりと姫様が答える。

「ひ、姫様ぁ〜〜〜!」

感激のあまり自分から抱きついたら、今度は懐かしのハイキックが飛んできた。

「いい? ご飯の支度はとっくにできているんだからさっさと仕度するのよ!」

そう言って部屋を出ていく姫様の背中を見送りながら、 先程約束した一日中姫様に抱きしめられた自分を想像して、顔が緩むのを押さえられなかった。




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インテで渡すはずだったSS