「お前は俺に何を望む」
ジャックのネジを巻き終わったハンナに、彼は口を開いた。
「私は何も望まないわ。ただお友達になってくれれば」
「理解不能だ。俺はお前の道具に過ぎない」
キッパリと言い切ったジャックの言葉に、ハンナは胸が痛んだ。
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甘 い 甘 い 呪 文 の 言 葉 Θ
子供の頃からハンナにとって人形はお友達だった。
寂しいハンナの心を慰めてくれたのは物を言わない人形。
ハンナの遊び相手だったのは動かない人形。
彼らが動いて言葉を交わすことが出来たら、どんなに素敵だろうと思った。
精霊人形と出会ってからもハンナの気持ちは変わらなかった。
人形はお友達であり家族なのだ。
だから道具のように扱うことも命令も彼女には出来ない。
「私はジャックを物として扱わないわ」
「なぜだ?」
「だって心があるもの」
「不要だな。オーナーの言葉が絶対だ。俺の意思など関係ない」
ジャックの考えは人形としては正しいものなのだろう。
けれど、それはハンナを悲しくさせる。
「どうしてそんな悲しいことを言うの?」
「悲しい? それこそ俺には不可解だ」
二人の考えは根本的に違うようで平行を辿る。
「じゃぁ理解してよ。ジャックは人間を研究してるんでしょ?」
初めてウィルに会った時、彼は人形らしからぬ行動ばかりとった。
もう少し人形としての自覚を持って欲しいと思ったけれど、自覚がありすぎるのも困りものだと思った。
「私は絶対ジャックとお友達になりたいのよ!」
その言葉にふぅと溜息を吐いてジャックはそのまま手を伸ばしハンナを抱きしめた。
突然のことに思考が停止するハンナに、ジャックは説明するように口を開く。
「街で口論となった男女がこうして抱擁していた。すると大抵の女はおとなしくなった」
「なっ……」
ジャックの中で抱きしめる行為は何の感情もなくただ相手を黙らせるためだけの手段なのだろうか。
そう思ったハンナは何故か胸が痛んだ。だが、
「……ふむ。困ったことになったぞ、人形師」
ポツリとジャックは告げた。
「手を離したくなくなってしまったのは何故だ?」
「そ、そんなこと私に言われても……」
近距離で問われてもハンナにもその答えは出ない。
「…………。人形師、俺はお前の望みは叶えてやれそうにない」
困りきったハンナにジャックは続ける。
「家族になるのはいい。ただ友達というのは駄目だ」
「どうして?」
ジルやルディはハンナの願いは喜んで叶えてくれた。
あのウィルでさえ、ハンナが「お願い」と言えば最終的には従ってくれた。
それでもジャックはハンナの願いは駄目だという。
「俺が満足できない。たぶん今この腕を離したくないのと同じ理由だと思うんだが……」
そう言って、ジッとハンナを見つめるが、ハンナはその言葉に答えることが出来ない。
体温のないはずのジャックの手。
だけれどその腕に抱きしめられた箇所が、熱を持ったように温かくなっていたからだ。
「理由が分かるまでこの腕を離す気はないが……。さて、どうしたものか」
口ではそういいつつも、ジャックの口元は僅かだが楽しそうに微笑んでいた。
ハンナはジャックの突然の行動に混乱しながらも、その熱が離れていかないことを願うのだった。
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進展した…!