人形作りが見たいと言ったのはジャックだ。 過程を見るのが楽しいとか、お前は特別な人形師だとか散々言われ、ハンナは根負けをして工房に案内した。 なのにジャックがおとなしくハンナの作業を眺めていたのはほんの五分ほどだ。 既に今は工房の隅のパーツ置き場に夢中だった。





Θ 君 限 定 Θ





作業の手を止め、ハンナは小さな溜息を漏らした。 人形を作るのは好きだったが、今はジャックのために作業していたのだ。 なのに当の本人は関心をなくしたのかこちらを見ようともしない。

「うーっ。少しはこっち見てくれたっていいのに……」

呟くと、答えるようにジャックは笑う。

「呼んだか?」

まるでハンナの反応を楽しむかのような言葉に、彼女は頬を上気させた。

「よっ、呼んだか? じゃないわ。作業を見たいといったのはジャックじゃない」
「あぁ」
「だっ、だったらおとなしく作業を見ててよ」
「……いいのか?」
「へ?」

予想外の言葉に、ハンナはポカンと口を開ける。

「お前が望むのなら、ずっと見るぞ。瞬きもせず、呼吸もせず、ただじっとお前だけを見る」

なんだかジャックなら本当にやりかねない気がした。 それに、ジャックに見つめられるのは正直心臓に悪かった。 現に工房に案内してからの五分間、ジャックは言葉通り瞬きもせずハンナを見ていたのだ。 恥かしくて人形作りの手は何度も止まってしまった。 ジャックと目があったわけではないのに、あの鋭い視線がジッとこちらを見ているような気がして落ち着かなかったのだ。



「居心地が悪そうだったから、視線を外したのだが」
「あ、あれはジャックが作業じゃなくて私を見つめるからで……」

そう、ジャックの視線は常に自分に向けられていた。 それがハンナを落ち着かせない原因だったのだ。

「人形作りの過程に興味を持ったのは本音だ。だが、それ以前に人形師であるハンナ、お前に興味を持った。だから見たまでだ」

シレッと答えたジャックの言葉に、再びハンナは頬を染める。 そんな様子にジャックは目を細めると口を開く。

「だが、俺がお前を見るよりも、お前が俺を見るほうが楽しいな」
「え?」
「俺がお前を見なければ、不安なお前の目が俺を追うことがわかった」

クッと口の端を持ち上げるジャックは心底楽しそうだ。

「うぅ。ジャックは意地悪だわ」

困ったように眉を寄せるハンナの表情にさえ、ジャックは興味津々と言ったように笑う。

「嫌なら俺がお前を見るが問題ないな」
「も、問題だらけよ」
「諦めろ」

ピシャリと言われてはどちらがマスターなのかわからない。 反論できず頬を膨らませるハンナを見つめてジャックは笑みを浮かべると、ポツリと漏らす。

「なにせ俺が興味を持った人間はお前が初めてなんだからな」

それはハンナを赤面させるのには十分で、相手は人形だとわかっていても恥かしくなってしまう。けれど、

「ふむ。やはり赤くなったか」
「なっ……」

その後に続いた言葉のせいでそれがジャックの本心だったのかはハンナにはわからないのだった。



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この二人は進展なさそうだ!(笑)