Θ あまいことば Θ



「うわーっちぃ」
「だから結わいてあげたんじゃないですか」

シャツを第三ボタンまで開けて、パタパタと下敷きで自分を仰ぐ真弘先輩。 窓際の机の上に座って、放課後の教室で涼んでいた。 私はそんな先輩の長い前髪を、サイドでチョコンと結ってあげていたのだ。



「ふふ。可愛い」
「んなっ…、ヤロー相手に可愛いなんて言うなっての」

真っ赤になって照れる先輩が可愛くて、私はグイと顔を近づけた。

「なんでですか? 真弘先輩は、とっても可愛いです」
「かっ……可愛いのは……だな。お…おま……あーっ」

おまえだよ、と言ってくれようとしているのは分かる。 でも真弘先輩はそういうことをサラッと言えない性格なのは知ってるから、私は微笑む。

「ふふ。いつになったらそういうの、自然に言ってくれるんですかね」
「う…うるせーっ。男はそーゆーのはここぞって時に言ってりゃいいんだよ」

真っ赤な顔の先輩が可愛くて、私はいっそうニヤニヤしてしまう。 きっと傍目には私が苛めているように見えるかもしれないなと思った。

「じゃ、あの時はここぞって時だったんですね」
「あの時…………!!」

告白してくれたときのことを指し示して言うと、先輩は答えにたどりついてますます真っ赤になった。

「やっぱり、先輩可愛いじゃないですか」

クスクスと笑うと先輩の目が真っ直ぐに私を捉えた。

「か…可愛いのは……その」

そのまま伸びてきた手がボフッと私の頭を抱きかかえて、 私はそのまま真弘先輩の胸に顔を埋める形となった。

「一回しか言わねーから、ちゃんと聞いとけよ」

私を抱きしめる手にグッと力を込めて先輩は耳元で囁く。

「俺が可愛いと感じるのはおまえだけだ、珠紀」

嬉しさに胸がいっぱいになって思わず顔を上げると、真っ赤な顔の真弘先輩とぶつかった。 先輩はハッとして私の頭を抱きしめる。

「ふふ。先輩、顔、真っ赤」
「うっせ。黙らすぞ」


からかうように顔を上げた私の唇を真弘先輩の唇が塞ぎ、 さっきまで暑さにバテていた私たちは、新たに生まれた熱に夢中になるのだった。



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リクエスト。ベタ甘