「もっと色気のあるプレゼントはなかったのか?」

ため息交じりにそう呟いた拓磨は、私のあげたタイヤキ(半分)と私の顔を交互に見つめた。

「だって、拓磨ってタイヤキ好きじゃない」

指摘すると、

「だからって、何で半分なんだよ!」

と文句言いつつ半分のタイヤキを口にねじ込んだ。



Θ タイヤキス Θ



今日、5月11日は拓磨の誕生日だ。 拓磨は私にとって初めての彼氏で、付き合って初めて迎える誕生日だから、特別なものにしたいと思っていた。

「やっぱり事前のリサーチは大事よね。本人が喜ぶものがいいんじゃない?」

プレゼントに悩んでいると、清乃ちゃんがそう提案してくれた。

「拓磨が好きなのはクロスワードだけど……」
「……鬼崎くん、あなたのことほったらかしになりそうだよね」

清乃ちゃんの言葉は安易に想像できた。私が何を言っても構ってくれない拓磨。そんなの、面白くない。

「うん。ダメ、絶対ダメ」

ノートに候補として書きあげた【クロスワード】の文字を二重線で打ち消す。

「なら、無難にケーキとか。鬼崎くん、甘いもの好きだっけ?」
「うん。タイヤキはよく食べてるよ」

食後のあとに決まってタイヤキを食べる姿をよく目にしている。

「ふむふむ。ならいっそ、ケーキのかわりにタイヤキで良いんじゃない?」

誕生日ケーキのかわりがタイヤキなんて、普通の人だったら怒るかもしれない。けれど、相手はあの拓磨だ。案外喜ぶかもしれない。

「逆に思い出に残るし、そうしよっかな」

たとえ失敗したとしても、インパクトがある方が何年経っても思い出に残るような気がした。

「うんうん。それにしても彼氏の誕生日プレゼントって、珠紀ちゃん青春してるねぇ」

ニヤニヤと清乃ちゃんに冷やかされながら、私はどこのタイヤキを買うかでまた頭を悩ませるのだった。





「はい、次はこれね」

タイヤキを半分にちぎると、尻尾の方を拓磨に手渡す。

「っつーか、それ全部俺への誕生日祝いなんだろ?」

拓磨はもぐもぐとタイヤキを口に運びながら、テーブルの上に山のように積まれたタイヤキへと恨めしそうな視線を向けた。

「そうだよ」

答えながら、私は頭から先を自分の口へと運んだ。

「食べたいなら一つやるから、ちぎるなっての」
「いやよ。だって拓磨は半分から尻尾の方しか食べちゃダメなんだもん」

そう言って私はタイヤキを半分にちぎった。

「あのなぁ、尻尾から先は餡子が少ねーんだぞ」
「分かってるよ。だからこんなにたくさん買って来たんじゃない」

拓磨への誕生日プレゼントだから奮発したわけではない。尻尾側しか食べさせたくなかったため、必然的に量が多くなってしまったのだ。

「……は?」

意味が分からないと言った様子で、拓磨は私を見つめた。

「いい、拓磨?このタイヤキをよく見て」

そう言って、タイヤキを一つつまむと、私は拓磨にタイヤキを見せる。

「ここに顔があるの」
「馬鹿にしてんのか?」

俺の方がタイヤキ歴長いんだぞとでも言いたげに拓磨は答えた。

「馬鹿にしてない。私は大真面目だよ」

そう言って、私はタイヤキの顔を指さす。

「ここに口があるでしょ。こっち側を拓磨にあげると、拓磨とタイヤキがキスすることになるじゃない」
「…………は?」

お前は何を言っているんだと、拓磨の目が尋ねていた。

「だから。自分でも馬鹿みたいな理由だって分かってるけど。タイヤキの数だけ拓磨とタイヤキがキスするって思ったら何か嫌だったの」

食べ物相手に妬く日か来るなんて夢にも思っていなかった。 けれど、プレゼントしたタイヤキを拓磨が喜んで食べてくれる姿を想像した時に、 タイヤキとキスしているみたいだと気づいたら嫌だと思ったのだ。

「そ、それに、誕生日ぐらい、拓磨にキスするのは私だけがいい」
「お、お前なに言って……」

勇気を出した私の言葉に、拓磨は真っ赤な顔で固まってしまった。

「なによ。拓磨は私にキスしたくないの?」

思わずムッとして尋ねると、

「い、いや。したくないとかそういうんじゃなくて……」

なんてハッキリしない返事をするものだから、

「待たない」

拓磨の胸倉をつかむとそのまま唇を重ねた。 予定とは随分違ってしまったけれど、これもある意味特別な誕生日として結果オーライだろう。







「っつーか俺がタイヤキとキスしてるとか考えるくせに、自分はいいのか?」

もぐもぐとタイヤキを食べていると、ポツリと拓磨がそんなことを漏らした。

「ふぁふぃは?」

タイヤキを目いっぱい口に詰め込んだため、モゴモゴとうまく返事ができなかったけれど拓磨には通じたようだ。

「頭の方くってんじゃん」
「ん?」

ゴクンと口の中のタイヤキを飲み込むと、

「だーかーら、お前がタイヤキとキスするとか言うから、俺だって気になってしょうがないって言ってんの」

と、拓磨は私がタイヤキの頭の方を食べていることを指摘した。

「え? それは別に良くない?」

サラリと答えて再びタイヤキを口に運ぼうとすると、

「良くない。全然良くないぞ」

拓磨はそう言って私の手を掴むと、タイヤキより先に私の口を塞いだ。



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スパコミで押し付けまわったハピバSSです。END のあとに裏ページにもオマケがついてたの気づいてもらえたかな(笑)