「私、左京さんのことが嫌いです」

一大決心をしてそう口にすると、

「そうですか」

目の前の左京さんは顔色一つ変えずにそう答えた。




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えいぷりるふーるというものの存在を教えてくれたのは縁さんだった。
その日はどんな嘘でもついていい日で、数年前から江戸で流行っているそうだ。
それが今日だと知ったので早速左京さんに告げたというのに、彼の反応はあっさりとしたものだった。

( もしかして……、本当に左京さんのことを嫌いになったと思っているのかな )

流行に疎い私が知らなかっただけで、左京さんはそういうのに詳しいと勝手に思い込んでいた。
私はたまたま縁さんに会ったからえいぷりるふーるを知っていたのだけれど、
左京さんが知らないとしたら、離縁したいという意味に取られてしまうんじゃないだろうか。
そう思って左京さんの顔色を伺ってみるものの、まったく読めなかった。



「あの、一応付け足したいことがあるんですけど……」

おずおずと胸の前で小さく手をあげて左京さんに告げると、

「どうぞ」

と彼は答えた。

「今日はえいぷりるふーると言いまして、嘘をついてもいい日なんだそうです」

そう言ってチラリと左京さんの顔を覗き見る。
えいぷりるふーるを知らなければきっと驚いたり安堵したりすると思っていたからだ。
けれど彼の顔色は変わらず、

「えぇ、知っていますよ」

シレッとそんな答えを返してきた。

「え?」

驚く私に

「ですから、香夜さんが私を嫌いだと嘘をついたのを知っていると言ったのです」

にっこりと左京さんは答えた。

「嘘ということは事実とは異なる。つまり、好きだということではないですか」
「なっ……」
「ですから、今更そんな事実を言われても、そうですか以外の返事がなかったのですがご不満でしたか?」

更にはそんな言葉を続けられるものだから

「私、左京さんのそういうところが嫌いです」

心の底からそう思ったのに

「えぇ、知ってますよ」

満面の笑みでそう返され、悔しさでいっぱいになるのだった。







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左京さんには敵わない日です