おじさんのところへ野菜をもらいに行った私は、つい話し込んでしまって帰りが遅くなってしまった。
もともと今日は曇っていたせいもあって、辺りはいつもより暗い。
そんな時に思い出してしまうのは、昨日螢とお松ちゃん、そしてかむろも加えて神社で話した怪談だった。
「なにもこんな時に思い出さなくても……」
自分の間抜けさに苦笑いを浮かべながら、私はびくびくと薄暗い道を歩いた。
Θ
君の手 Θ
ガサガサっと草むらから音がして、私はピタリと足を止めた。
「ゆ、幽霊なんて作り話よ。うん、草むらがガサガサ言っているのも気のせい、気のせい……」
そう言って通り過ぎようとしたのだけれど、草むらの向こうに何かいるのかその音はだんだんと近づいているようだった。
そして、何かが現れた瞬間、
「キ、キャァァァァァッ!!」
大きな悲鳴をあげて、私は貰ったばかりの野菜を次々と投げ込んだ。
「痛ッ、バ、バカ。オマエ……!!」
「…………へ?」
じゃがいもや大根を受け止め、こちらに声をかけて来たのは螢だった。
「なん、で……」
「オマエが全然帰って来ねーって、親父さんに頼まれたからだよ」
そう言って野菜の入ったかごを受けとると、野菜を詰め直してそのまま背中に背負った。
「ほら、帰んぞ」
「う、うん」
歩き出した螢につられるようにその後ろを歩く。
けれど、今の私は風の音にもびくついてしまってなかなか足が進まない。
そのたびに螢は足を止めて私が追い付くのを待っていてくれたのだけれど、
「しょぅがねぇな。んな怖かったらオレの手でも握ってろ。ほら」
ついにそんなことを言い出した。
「え?」
「どーせ昨日の怪談を思いだしてびびってんだろ?」
図星を刺されて思わず押し黙る。
「一応は責任感じてるし、早く帰って親父さん安心させねーとだろ?」
「……うん」
螢の言葉に頷くと、私はおずおずとその手を掴んだ。
「……螢の手は、大きいね」
無言で歩くのも気恥かしくて、ついそんなことを口にした。
「オマエの手が小せぇんだろ?」
螢の言葉はもっともだ。
けれど、私が伝えたいのはそういう意味ではない。
「そうなんだけど……その、男の人の手だなって」
「ったりめーだろ」
私の言いたいことはどうも螢には伝わっていないようだ。
「……私、お父さん以外の男の人と手を繋いだことなかったから」
「…………」
急に螢が黙ってしまうものだから、
「螢?」
彼の顔を覗くように見上げると、
「オ、オマエが変なこと言うから」
螢は答えた。
「?」
首を傾げる私に
「みょ、妙に意識しちまっただろ」
螢は顔をそむけてそう告げた。
途端に私の顔も真っ赤になってしまった。
「な、なんか言えよ」
「う、うん」
お互いに妙に意識してしまってその後の会話は続かなかったけれど、
螢は手を離そうとしなかったから、私もただ黙って螢の手を握りしめて歩いた。
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またまたボイスネタ。いつでも手を繋げばいいよ。