「いい匂いがすると思ったら先生か」
「あ、司くん。練習終った?」

明日のクリスマスに備えて、子供たちへ配る為のクッキーを焼いていると、
クンクンと鼻を動かしながら司くんがやってきた。

「今日もバッチリ決めてやったぜ」

そう言ってにっこりと笑う司くんにつられて、私も笑みをこぼした。

「で、先生はこんな遅くまで何やってんだ?」

再び最初と同じ質問をした司くんに、

「明日のクリスマスに備えて、子供たちにクッキーを焼いてるのよ」

私はオープンを指差して答えた。





Θ サンタクロース Θ





「なんだか先生ってサンタみたいだな」
「え?」

しみじみと口を開いた司くんは、

「あいつらにとっては先生のクッキーが何よりのプレゼントだと思うよ。おいらが保証する」

と言って自分の胸をとんと叩いた。

「ありがと。司くんの分もちゃんとあるから、明日を楽しみにしてね」
「マジで? おいらの分もあんのか?」
「もちろんよ」

いつもの笑顔が見れると思って期待して告げると、

「そっか。すっげぇ嬉しいけど、ちょっと複雑」

珍しく彼は表情を曇らせた。

「おいらは先生のサンタになろうかなって思ってたから、先生がサンタだと立場が逆だなって……」
「え?」

彼も言葉の意味がいまいち理解できずに問いかけると、

「あ、いや。マルオの奴が、明日は誰しも特別な人のサンタになる日だって言ってたから……」
「それ聞いて、おいらがサンタになるなら先生がいいなって」
「べ、別に深い意味はないぞ。いつも世話になってるし、恩は返さないといけないってじいちゃんも言ってたし」
「サンタってなんかシャバイ感じがしたし」
「と、とにかく。おいらもなんか先生に用意するから、楽しみにしててくれよ。な」

満面の笑みでそう告げて立ち去る司くんの背中を見送った私を
べーさんともーさんがニヤニヤした顔で見つめる。

「な、なんですか?」
「だって、なぁ」
「えぇ。一目瞭然じゃないですか」

チラリと視線を送った先にあるのは、先に焼き上がった司くんの為に作ったクッキーだ。

「なにか、変……ですか?」
「無自覚なのか」
「まぁまぁ。聖なる夜ぐらい誰か一人を想ってもいいんじゃないですかね」

そんなことを言いながら二人がニヤニヤと見つめるものだから、
私は居心地の悪さを感じながらクッキーの焼き上がりを待つのだった。



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司の分だけちょっと大きいとか、差があるといいな